研究課題/領域番号 |
19H02779
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
奥村 泰志 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (50448073)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液晶 / 超解像顕微鏡 / Storm / 高分子安定化ブルー相 / 高分子 |
研究実績の概要 |
ネマチック液晶にキラル剤、一官能性モノマーおよび二官能性モノマーを添加したブルー相前駆体に、アクリレート化した超解像顕微鏡用の蛍光色素を添加して高分子安定化ブルー相(PSBP)を作製し、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)と超解像顕微鏡(STROM)を用いて高分子分布の観察を試みた。当初、超解像顕微鏡用の色素の退色が速く、十分な輝点数の積算が出来なかったが、退色防止剤の探索により改善され、PSBP中に形成されるスピノーダル分解様の高分子構造が安定して観察されるようになった。一方、観察技術の向上より、このスピノーダル分解様の高分子構造が明確に観察されるのはセルを形成している両ガラス近傍のみであることを見出した。ここで、ガラス近傍に局在化しているのはPSBPに含まれる高分子全体の傾向なのか、それともSTROM用色素のみの傾向なのかという疑問が生じた。STROMでは固定化せずに並進運動する色素分子の検出が出来ないため、CLSMによる三次元観察を通して超解像顕微鏡用の色素モノマーの重合前の段階でのセル中の分布を観察した。その結果、STROM用色素が重合前のPSBP前駆体中でもガラス近傍に局在化するケースが見出され、色素の液晶への溶解性が十分ではないことが示唆された。形成される高分子凝集構造と超解像顕微鏡用の色素の分布が一致しないと、STROMによる正確な高分子構造の観察が出来ないため、液晶中での色素モノマー間の相互作用を低減することで溶解性を改善する方向で新規な分子構造のモノマーの合成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、PSBPの安定化に用いるモノマーに、自発的に明滅を繰り返す超解像顕微鏡用色素モノマーを添加することで高分子構造を蛍光標識する。高分子構造を可視化するという目的を達成するには、非蛍光モノマーと蛍光モノマーの分布が一致することが大前提となる。しかし本年度の研究を通して、スピノーダル分解様の高分子構造が観察されるのはセルを形成している両ガラス近傍のみであり、また、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)による超解像顕微鏡用の色素モノマーの重合前の段階でのセル中の分布を三次元観察した結果、重合前のPSBP前駆体中でもSTROM用色素がガラス近傍に局在化するケースが見出された。色素の液晶への溶解性が十分でないと、形成される高分子凝集構造と超解像顕微鏡用の色素の分布に差異が生じる。問題の解決には、色素モノマーの液晶への溶解性を改善することが不可欠であるため、研究の遂行に遅れが生じた。本研究は液晶などのソフトマテリアルにSTORMを適用するという他に類を見ない新しい試みであり、この様な問題を解消することで、PSBP以外の様々なソフトマテリアルをSTORMで観察することが可能になるため、時間を要しても解決すべきと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
超解像顕微鏡用の色素モノマーの液晶への溶解性が不十分になる原因として、水素結合を形成しうる官能基の存在が挙げられる。そこで、この官能基を排除した新規色素モノマーを合成し、重合前の段階で液晶への溶解性を検証する。液晶中で局在化しない十分な溶解性が確認できた場合、これまで同様にin-situ重合による高分子安定化ブルー相(PSBP)を作製し、STORMおよびCLSMによる観察を実施する。また、超解像顕微鏡用の色素モノマーの液晶への溶解性が十分に改善できなかった場合、色素ではなく反応性の高い官能基を高分子構造体に組み込んだPSBPを作製し、この官能基に対して反応性を有する超解像顕微鏡用の色素を液晶に溶かした状態にて、追加で添加することでPSBPへ色素を後から修飾する作製法も試みる。そして、正確な高分子構造を観察する基礎技術を確立した上で、安定化に用いるモノマー種、モノマー濃度、UV照射による重合時の温度と、高分子ネットワークの形態の関係を解明する。この時、これまでと同様に、効率的に重合条件を最適化するため、一つのPSBPセル内で安定化温度の勾配とUV照射強度勾配を直交させながらPSBPのマトリクスを1セル中に作製するシステムを使用する。このセルの電気光学応答を高速度カメラで録画して動画の輝度解析から全領域の電気光学効果を評価すると共に、同一のセルを共焦点顕微鏡とSTORMで観察することで、安定化条件、電気光学特性および耐久性と、高分子構造の関係解明を効率的に進める。そしてブルー相の線欠陥に沿って高分子が理想的に配列して形成される高分子ネットワークの実空間観察に挑戦する。更にPSBP前駆体に高分子量のポリエチレングリコールを添加して、粘弾性相分離型PSBPを作製し、その共焦点レーザー走査顕微鏡およびSTORM観察と電気光学特性の評価を通して、粘弾性相分離型PSBPの作製条件の最適化を進める。
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