研究課題/領域番号 |
19H02793
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮前 孝行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (80358134)
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研究分担者 |
佐藤 友哉 東京理科大学, 理工学部物理学科, 助教 (80836370)
赤池 幸紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90581695)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機デバイス / 和周波発生 / 表面・界面 / 有機トランジスタ / 有機EL |
研究実績の概要 |
本研究では、有機トランジスタおよび有機EL素子の分子配向と電荷輸送、特性向上に対する新たな試みとして、電界誘起2重共鳴SFGの実動作有機デバイスへの適用、および変位電流と電界誘起SFGの同時測定技術の開発と実素子解析へ適用を行う。 本年度は、波数分解能が高い可視光波長変換ユニットと紫外光までの光出力を可能にする2倍波発生ユニットの導入を図り測定装置の高度化を進めた。この電解誘起2重共鳴SFGを用いた有機デバイス解析に関して、2件の国際会議の依頼講演を行った。 また、有機トランジスタを用いた電界誘起SFG分光で、ソース-ドレイン間のチャネル領域のSFGスペクトルと電圧印加時の挙動観察を進める準備を進めた。酸化アルミとアルキルホスホン酸自己組織化単分子膜を用いたゲート絶縁層上に大気安定性の高いDPh-BTBTを真空蒸着し作成した有機トランジスタを作成し、既報の素子と同等の特瀬雨を得ることを確認した。この素子を用いた電圧印加時のチャネル内のSFGスペクトル挙動観察の研究を進めている。 さらにSFG信号強度変化と界面電荷量の相関の解明に向け、積層構造有機EL素子に対してCELIV(Charge-carrier Extraction by Linearly Increasing Voltage)法を適用し、NPD/Alq3界面での蓄積電荷量の評価を行った。発光閾値以上の印加電圧条件下では蓄積電荷量の飽和が観測され、その値がAlq3の配向分極によって形成される分極電荷量と同程度であることを確認した。また、ホール注入層を換えた素子(MoO3とHATCN)においてNPD/Alq3界面での蓄積電荷量は同程度であるがNPDのホール移動度に差があることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、可視光波長変換ユニットと2倍波発生ユニットの導入を図り2重共鳴SFG測定装置の高度化を進めた。従来の波長変換ユニットは波長を変えると結晶の回転軸移動などにより、出射光軸が動きその度に調整が必要であったが、波長変換ユニットに内蔵されたペロンブロッカー等により安定した波長可変光の出力を確認した。 実動作する有機デバイスのその場測定に向けて3つの取り組みを進めた。(1)酸化アルミとアルキルホスホン酸単分子膜をゲート絶縁膜として用いた有機トランジスタを作成し、ポリチオフェンやDPh-BTBTなどの有機半導体を用いたトランジスタ作成に取り組んだ。酸化アルミとアルキルホスホン酸単分子膜を用いたトランジスタは低電圧駆動で良好な素子特性を示し、SFGにより解析したアルキル鎖配向秩序と電荷輸送特性の関連を詳細に調べることができた。 (2)有機EL素子に対してCELIV(Charge-carrier Extraction by Linearly Increasing Voltage)法を適用し、NPD/Alq3界面での蓄積電荷量の評価を行った。CELIVから発光閾値以上の印加電圧条件下で蓄積電荷量の飽和が観測され、その値がAlq3の配向分極によって形成される分極電荷量と同程度であることを確認できた。また、ホール注入層を換えた素子においてNPD/Alq3界面での蓄積電荷量は同程度であるがNPDのホール移動度に差があることを示唆する結果が得られるなど興味深い知見を得ることができた。(3)有機デバイスの電荷分離/再結合プロセスが起きる有機ヘテロ接合界面として、有機太陽電池の光電変換界面に用いられるオリゴチオフェン/C60界面のSFG測定を実施した。C60のピンチモードの強度がオリゴチオフェンとの界面形成後に著しく増大し、界面電子移動とC60の配向が揃ったことが原因であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
20年度は、二重共鳴SFG分光装置の最適化を進め、安定して動作する条件を探し出すことから進める。有機EL素子を用いた電解誘起SFG法はこれまで既に我々が世界に先駆けて進めてきたものであり、CELIV法での電荷蓄積情報と合わせて解析を進めることにより界面電荷蓄積のより深い理解を進めていく。 有機トランジスタについては、昨年までの酸化アルミとアルキルホスホン酸単分子膜を用いた素子はレーザー光耐性が低いことが判明したため、シリコンウェハー上に熱酸化膜と有機単分子膜を組み合わせた絶縁膜を作成し、素子特性ならびに電荷輸送特性を評価していく。予備的研究では、大気下での繰り返し測定でも長時間安定した特性を示し、バイアスストレスのような兆候は見られていないことから、本素子を用いての電解誘起SFG測定を試みる予定である。 さらにアメリカのグループと協力して、電圧印加時の有機トランジスタの電界挙動のイメージング測定を試みる計画を進めている。SFG分光での微小領域のイメージング測定は、微弱なSFG光検出の難しさや、斜め入射/出射光のため開口数を大きくできないなどの問題があるため、一般には普及していない。近年アメリカヒューストン大学のグループは圧縮センシング技術をSFG測定に組み込んだシステムを考案しており、このシステムを用いた有機トランジスタの電圧印加時のその場測定を試みることを計画している。 また有機EL、有機太陽電池ヘテロ接合界面については、駆動後や界面形成後での分子配向変化や電荷挙動を詳細に検討していく。
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