研究課題/領域番号 |
19H02796
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川田 達也 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (10271983)
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研究分担者 |
八代 圭司 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (20323107)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロトン導電体 / 混合導電体 / 等価回路 / マルチキャリア / 固体酸化物形燃料電池 |
研究実績の概要 |
本研究はプロトン- ホール-酸化物イオン混合導電体を例として,複数キャリア導電体/電極系を等価回路で表現する解析法を提案し,その妥当性を検証するとともに,一般的な回路シミュレーターを用いて過渡応答・交流解析を行う簡便な評価手法を確立することを目指す。本年度は(1)材料の輸送特性データの収集と(2)等価回路の妥当性の精査を中心に研究を実施した。 (1)については,複数キャリア導電体としてBaZr0.9Y0.1O3-d(BZY)を,また,これと組み合わせる電極として複数の酸化物をとりあげ,文献値を収集・整理するとともに,一部の材料については同位体交換法により輸送速度を見積もった。さらにBZYについては,酸素分圧を変化させた際の水蒸気の溶解度について詳細に測定し定式化した。 (2)については,提案する回路の論理的な整合性と,実験結果との比較の,2つの観点から検証した。等価回路においては3つのキャリアの輸送は,それぞれの抵抗率をパラメータとする3本の輸送線で表現できるが,キャリア間の電荷交換(欠陥濃度の変化)は,輸送線間をキャパシタでΔ型,Y型に接続する2通りの表現が可能である。それぞれの回路におけるキャパシタに対応する物理量間の関係が,局所平衡と電荷中性条件のもとでは,電気回路における所謂Δ-Y変換と論理的に等価であることを解析的に示した。さらに,一般的な回路シミュレータソフトであるLT-Spiceを用いて,過渡応答ならびにインピーダンスの周波数応答の計算を実施した。前者については,BZY板をガスと平衡化させた状態から,一方の面の水蒸気分圧を変化させた際の内部ポテンシャル変化を計算し,これが,同様の材料について文献で報告されている計算・実験と整合することを確認した。また,後者については,複数種類の電極を用いて測定した実験値と比較し,おおよそその周波数依存を再現し得ることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画のうち,上記(1)材料の輸送特性データの収集に関しては,本研究の解析に最低限必要なデータの収集は終了した。ただし,本研究の内容について他機関の研究者とディスカッション・情報交換するなかで,当初想定していなかった興味深い物性を有する物質についての知見を得ることができたので,今後,より詳細な共同研究の可能性について検討する。 (2)の等価回路の妥当性の精査については,研究開始当初に残っていた論理的な曖昧さを排除することができた。一方で,等価回路の実際の計算に用いた回路シミュレータソフトLT-Spiceは,その設計上,一部,適用が困難な点があることが明らかとなった。採用した等価回路では,電荷交換は各キャリアの輸送線をΔ型に結ぶキャパシタで表現する。これは数式上,酸素,水素,水蒸気の化学ポテンシャルのうち,2種類を用いてキャリア濃度を表した際の,それぞれのポテンシャルに関する偏微分を意味する。ところが,LT-Spiceでは,容量を直接的に電位の関数として表現することができず,そのかわり,キャパシタにたまる電荷量として表すことになるため,上記の等価回路に用いた場合,リダンダントな表現になる。これを回避するためには,等価回路自体を変更するか,計算における工夫が必要になる。本年度は,過渡応答については前者の考え方で計算を実施し,前述のように,ほぼ満足できる結果が得られたと考えている。一方,インピーダンスについては,さらに,計算の仕様に基づく挙動の複雑さが予想されたので,定常計算によるポテンシャル分布から得られる各位置での容量を固定値として与えて,曖昧さを回避することを試みた。こちらも,計算結果は実験値をおおよそ再現することが可能であった。ただし,これらの方法の妥当性については,今後さらに検討を加える必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,以下の項目を中心に研究を進める。 (1) 等価回路の妥当性の検証: 前述のように,昨年度までに等価回路モデルの理論的な精査が完了し,モデル材料系を用いた実験による検証にとりかかった。計算の実装において一部検討すべき点が残されているので,これらについて,早期に検討を進める。また,これまでに,可逆性の高い多孔質電極・緻密膜電極からなるモデルセルを試作し,そのインピーダンス測定を実施して,これらを再現するための等価回路パラメータの最適化を試みてきたが,電極部分の等価回路は,酸化反応,水和反応,水素溶解反応のそれぞれ対して単純な抵抗を配置したものであった。今後は,ガス・温度の条件を系統的に変化させて,これらを矛盾なく説明し得る電極モデルの構築に進む。 (2) 電極反応の駆動力評価法の提案:「分極」の原因である界面の化学ポテンシャルシフトは,酸素,水蒸気,水素のうち少なくとも2つについて決定する必要がある。これらは酸素交換,水和,水素交換およびこれらの複合過程など気固相交換反応を介して,固体内の各キャリアのポテンシャルと関連している。上記(1)の検証で得られた知見をもとに,プロトン導電体プローブ,酸化物イオン導電体プローブ,電子プローブを配した電気化学セルを試作し,各キャリアの局所電気化学ポテンシャルを測定することを試みる。各ポテンシャルの挙動を検証したのち,電極反応抵抗を抽出する最も簡便で合理的な計測スキームを決定する。 (3)電極評価手法の提案: 上記(2)の検討結果を等価回路解析にフィードバックし,複数キャリア導電体の物質輸送と電極反応の簡便な評価手法の確立に向けた考察を始める。また,この手法をいくつかの材料系に適用して,その有用性を検証する。さらに,複数キャリア導電体上の「電極反応機構」についても考察を進める。 得られた結果は学術誌,国内外の学術会議等で積極的に公表する。
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