研究実績の概要 |
本研究の目的は、濃度消光のない光活性中心の高濃度ナノ凝集体を含む透明発光性シリカガラスの開発と物性評価、および発光デバイスへの応用である。凝集体として、主に希土類(RE)イオンを高濃度(1.3-1.6×10^22cm-3)に含むためそれらの間隔が小さく(~0.4nm)、エネルギー移動の速いREPO4を用いている。今年度は主に、シリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラス緑色蛍光体の発光効率向上と、合成に用いるゾル-ゲル反応の機構解明に取り組んだ。 (La,Tb,Ce)PO4は蛍光灯用緑色蛍光体で、Ce3+イオンからTb3+イオンへの励起移動を介して明るく発光するが、粉末で消光中心の完全除去が難しく、濃度消光を回避するためLa3+イオンなどの不活性元素による光活性元素(Tb、Ce)の希釈が必須である。他方、筆者らは2014年に、光活性元素が無希釈のシリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラスを開発していたが、発光効率は(La,Tb,Ce)PO4蛍光体に及ばなかった。 シリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラスの発光効率が低い理由は消光中心の存在であると考え、その同定と除去に取り組んだ。発光効率が水素還元およびP/RE比の増大によって向上したことから、消光中心はCe4+イオンREPO4ナノ結晶表面のPが配位不足のREイオンであることが示された。これらの除去によって、(La,Tb,Ce)PO4蛍光体を凌ぐ、発光の内部量子効率がほぼ1の無濃度消光蛍光体が、光活性中心の高濃度凝集体で実現された。 合成にはゾル-ゲル法を用いているが、ゲル化に至る加水分解・重縮合機構への関心は近年薄かった。今回、加水分解・重縮合を物質収支を明示した全反応式として初めて定式化した。この式を用いた解析で、テトラエトキシシランを前駆体とした反応溶液には重縮合の遅い不活性なSiOH基が多く残存することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、濃度消光が抑制できることが報告されている希土類濃度は10^21cm-3オーダーであった。本研究で用いたREPO4は、これら過去の報告の~2倍以上である1.3-1.6×10^22 cm-3のREイオンを含むため、すべてのREイオンが臨界エネルギー移動距離(~0.5-0.6nm)以内の~0.4nmで近接している。昨年度主に研究を行ったシリカ-(Gd,Pr)PO4透明結晶化ガラス紫外蛍光体とあわせて、光活性中心を10^22cm-3オーダーで高濃度に含む材料で、可視・紫外域で内部量子効率がほぼ1の無濃度消光発光が実現できることを示したことは大きな成果であると考えている。 加えて、加水分解・重縮合を物質収支を明示した全反応式として定式化できたこと、ゾル-ゲル法の前駆体として一般的なテトラエトキシシランを用いた反応溶液中に反応性が低く架橋しにくいSiOH基が多く残存することを明らかにしたことは、ゾル-ゲル科学における基礎的知見として重要性が高いと考えている。 他方、赤外発光材料として有望なシリカ-YbPO4透明結晶化ガラスの合成は遅れ気味であり、未だ再現性が不十分なため、引き続き合成法の改良に取り組む。また、シリカ-(Gd,Pr)PO4透明結晶化ガラスとエキシマランプと一体化させた狭帯域UVB光源の試作を行ったが、特性が不十分だったため、引き続き改良に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシリカ-YbPO4透明結晶化ガラスによる赤外発光材料の開発を進める。再現性良く合成が行えるリン源、およびSiOH基濃度低減のためのフッ素ドープ用フッ素源を探索し、再現性の向上を図る。SiOH基濃度を低減させる他の手法として、シリカゲルの表面疎水化を試み、フッ素ドープと併用して安定的なSiOH基濃度低減を目指す。エネルギー移動を利用した赤外発光材料の原理実証として、Er3+イオンを共ドープしたシリカ-(Yb,Er)PO4透明結晶化ガラスによる1.5μm帯発光材料の開発を行う。 PとAlは、ともにシリカガラスへのREイオンの溶解を促進させる元素として知られているが、溶解機構が異なり、前者ではREPO4ナノ結晶が析出するが、後者ではREイオンが比較的均一に分散することが知られている。この違いが光活性イオン間のエネルギー移動を介した発光過程に及ぼす影響を調べるため、シリカ-(Tb,Ce)PO4透明結晶化ガラスと(Tb,Ce)-Al共ドープシリカガラスで比較を行う。 シリカ-(Gd,Pr)PO4透明結晶化ガラスによるエキシマランプ一体型狭帯域UVB光源の特性改善を行う。
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