研究課題/領域番号 |
19H02809
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
川崎 晋司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40241294)
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研究分担者 |
服部 義之 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (20456495)
石井 陽祐 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80752914)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 内包 / ヨウ素 / 硫黄 / アルカリ金属 / キノン / 二次電池 |
研究実績の概要 |
ヨウ素、硫黄を内包した単層カーボンナノチューブを作用極とし、リチウムやナトリウムイオンを電気化学的に内包分子と反応させる実験を多数実施し、いずれの内包分子もアルカリ金属イオンと可逆的に反応することを明らかにした。得られた成果は研究代表者である川崎がいくつかの国内会議、国際会議で発表した。また、この研究の実験を担当した大学院生が複数の国内会議で発表を行った。この実験の反応生成物について放射光X線を用いたX線吸収分光実験も実施したが、実験上のいくつかの問題から学会・論文発表を行うには十分なデータではないと判断した。しかし、実験結果のいくつかは今後同様の実験を進めるうえで有用な知見であると判断し、利用した放射光施設の報告書としてまとめた。 内包したヨウ素を硝酸銀の水溶液に浸漬させるとヨウ素が不均化反応を起こし、AgIO3とAgIを生成することを明らかにした。得られた複合体はCO2の光還元触媒として機能することを実験的に示した。これらの成果については今後、学会・論文へつなげていく。 内包ハロゲン分子と内包キノン分子を利用した新しい水溶液二次電池については充放電が可能であることを実験的に明らかにし、研究分担者および実験担当学生により複数の学会で発表を行った。ただし、充放電の可逆性にやや問題があり、不可逆容量の低減が課題となっている。 上記した内包試料の電気化学特性などについては解説記事を2本執筆した。また、こうした一連の研究を進めていく中で明らかになった炭素材料へのイオン吸着やキノン分子の光化学特性に関する知見を英文の国際誌2報へ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単層カーボンナノチューブに内包したヨウ素、硫黄を作用極とし、金属リチウムを対極とするテストセルを構築し内包試料とアルカリ金属との電気化学反応を実施した。電気化学的にこの反応を確認しながら、分光測定により構造評価を実施した。チューブ内部という空間的制約の中で構築される生成物の構造を評価するうえで有力と考えた放射光X線吸収実験を行った。しかし、ヨウ素、硫黄のどちらの試料においても明確な構造情報を得ることができなかった。これはいくつかの実験上の問題が原因であり、2020年度にあらためて再実験を実施する予定である。 また、内包したヨウ素を硝酸銀の水溶液に浸漬させるとヨウ素が不均化反応を起こし、AgIO3とAgIを生成することがわかった。生成したAgIO3はCO2の光還元触媒として期待されている材料である。ただし、AgIO3のバンドギャップは大きいので可視光の吸収ができない。一方、同時に生成するAgIは可視光の吸収が可能であり、その伝導帯下端のエネルギー位置はAgIO3のそれよりも高い。したがって、AgIで可視光吸収により励起した電子をAgIO3に移動させ、CO2の還元に利用できる。このことを確認するために、CO2の光還元実験を実施した。光還元により生成する一酸化炭素をガスクロマトグラフィーで明瞭に観測することができた。2020年度はより詳細な反応メカニズムの解明を行う。 さらに、内包試料を利用した安全・低コスト・高速充電可能な水溶液二次電池の開発を目指し、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウムなどのアルカリ金属ハライド水溶液を用いた充放電実験を実施した。さらに、亜鉛などの多価イオンでも同様の実験を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は単層カーボンナノチューブに内包した硫黄、ヨウ素をアルカリ金属と化学反応させる実験を実施した。生成物の構造評価をさまざまな分光実験により行ったが必ずしも明確に構造を明らかにできていない。本年度はこれを明らかにすべく放射光を利用したX線吸収実験、X線光電子分光を実施する(分担者の服部がおもに担当)。構造評価の実験と並行して、これらの材料を利用した革新電池の開発・評価も行う(川崎および分担者の石井が担当)。 内包する単層カーボンナノチューブの直径、結晶性などを調整するため、レーザー蒸発法によるナノチューブの合成を実施する。昨年度本予算で購入したYAGレーザーに加え、今年度は電気炉、真空ポンプ、光学ラインを整備し本格的な合成実験を開始する。また、生成したナノチューブの精製・分離も行い、直径・電子状態による化学反応・物性への影響を明らかにする(分担者の石井が担当)。 今年度は単層カーボンナノチューブに内包した分子のチューブ内での反応だけでなく、チューブ閉じ込め効果を利用した新しい化学反応にも着手する。具体的には内包した分子と金属イオンあるいは金属錯体とをチューブ末端で反応させ生成物をナノチューブ表面でとらえることを試みる。分子スケールで合成された新しい物質・材料は担体となるカーボンナノチューブと複合体を形成する。この複合体にはナノチューブのキャリア移動特性を利用した新しい物性が期待でき、新しいデバイス開発が可能となる。具体的には高速充放電可能な革新電池や太陽光二酸化炭素還元のための光触媒の開発を実施する(川崎が担当)。 これらの実験にはテストセルのような消耗品を拡充しなければ効率的な実験を進めることができないため今年度予算で購入・整備する。
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