研究課題/領域番号 |
19H02812
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤塚 守 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40282040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 半導体光触媒 / レーザーフラッシュホトリシス / 単一粒子分光 / 貴金属ナノ粒子 / 人工光合成 |
研究実績の概要 |
本研究は、太陽光を用いた人工光合成に用いる半導体光触媒に超高速分光ならびに単一分子分光を適用することで、ナノスケールの不均一界面でおこっている物質間相互作用や化学反応を解明し、構成要素ならびに構造最適化することを目的としている。本年度は以下の研究を行った。 (1)貴金属ナノ粒子またはブラックフォスフォラスで修飾した可視および近赤外光応答型TiO2メソ結晶(TMC)ナノ光触媒の開発および評価。TMCナノ光触媒は電荷移動が高速なことおよび光電荷が長寿命であるため有望な水素発生光触媒であるが、光吸収が紫外域に限定されるため、可視および近赤外光に対する応答性が望まれている。本研究では近赤外領域まで吸収を有する金ナノロッド(AuNR)でTMCを修飾することで近赤外応答光触媒を構築した。AuNRで修飾したTMCは可視近赤外光照射下で924 μmol h-1 g-1の水素発生を示し、表面プラズモン共鳴励起により生じたホットエレクトロンが効率よくTMCに移動していることを単一分子分光と時間分解拡散反射で示した。また、より安価な光増感剤であるブラックフォスフォラスのナノシート(BPNS)でTMCを修飾することで近赤外まで応答性を示す光触媒を調製し、近赤外光照射による水素発生を確認した。さらに、光触媒活性がNSの厚さに依存することを見出し、薄いNSを用いることで水素発生効率が向上することを示した。 (2)可視近赤外光応答型グラフィティックカーボンナイトライド(g-C3N4)ナノ光触媒の開発および評価。可視光応答触媒として注目されているg-C3N4に近赤外応答性を付与するため、1000 nmより長波長側に吸収を示す金ナノプリズムを修飾したg-C3N4を開発した。本触媒による水素発生を確認するとともに、過渡吸収測定により金ナノプリズムに生成するホットエレクトロンの電荷移動過程を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度においては、広い太陽光スペクトルを有効に活用する水素発生光触媒の開発に注力することにより、近赤外領域まで応答性を示す光触媒の開発に成功した。金ナノロッドまたはブラックフォスフォラスナノシートを修飾したTiO2メソ結晶は近赤外領域まで水素発生活性を示したことより、TiO2メソ結晶の高いポテンシャルを有効に利用することで、従来のTMC触媒を格段に向上させた結果が得られた。さらに、水素発生効率の評価のみにとどまらず、単一粒子分光ならびに時間分解分光を適用することで、その機能向上メカニズムについても新たな知見を得ることに成功している。これらの基礎メカニズムに関する検討は、光照射による電荷分離の向上の重要性、ホットエレクトロン生成による高活性な光電荷生成の実証、メソ結晶内の高速な電子移動の優位性を実証したものであった。さらに、触媒活性に対するブラックフォスフォラスの厚さ依存性など新たな知見を得ている。 また、水素発生光触媒においてTiO2は重要な役割を担ってきたが、そのほかの光触媒系の開発も近年では活発に行われていることより、それらを用いた可視近赤外応答光触媒の構築も重要な課題である。本研究ではその一つとしてカーボンナイトライドに着目し、それらの可視近赤外応答性を実現している。くわえて、その活性発現メカニズムも明らかにしている。 以上の検討を行うことにより、可視近赤外応答光触媒を種々合成することに成功するとともに、そのメカニズムについても新たな知見を得ている。また、ブラックフォスフォラスの厚さ依存性など研究当初においては予想しなかった点も明らかにしている。これらの成果を考慮するとおおむね順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果に基づき次年度以降以下の研究展開を予定している。 (1)太陽光の広いスペクトルをカバーする光触媒の開発。今年度、すでに金ナノロッドおよびブラックフォスフォラスの有用性を示したが、さらなる研究展開として、二次元状ナノシートにより修飾したCdSナノ粒子の光触媒活性の検討を行う。CdSナノ粒子は可視域に吸収を有することから注目される可視光応答型水素発生光触媒であるが、電荷再結合が高速なため水素発生効率が不十分である。より低コストな助触媒を開発するため、二次元状ナノシートであるMo2SをCdSの助触媒とすることで水素発生反応を検討し、その効率の最適化を図る。 (2)光触媒の高効率化を実現するメカニズムの解明。光触媒の効率向上には不均一界面における電荷分離と光触媒内の電荷移動が重要であるが、これらを検討するため、以下のモデル系の研究を予定している。 (2-1) 可視近赤外光応答型グラフィティックカーボンナイトライド(g-C3N4)ナノ光触媒と助触媒間の電子移動の評価。g-C3N4は有用な光触媒であるが、水素発生プロセスにおいてg-C3N4と助触媒である貴金属触媒間の電子移動の高効率化が不可欠である。本研究ではフェムト秒時間分解拡散反射測定において、励起波長を制御することで、高効率な電子移動が起こる条件を探索する。特に、バンド端励起およびバンド励起を比較することで、高エネルギー状態からの電子移動の寄与を明らかにする。 (2-2)単一粒子分光によるTiO2結晶サイトの検討。マイクロメータサイズのTiO2単結晶を作成し、蛍光寿命マッピングを行うことで、電荷寿命の活性サイト依存性を明らかにする。さらに、酸化還元により蛍光を発する色素を用い、酸化還元反応活性サイトを明らかにする。特に結晶面および形状の依存性を明らかにすることで高活性触媒の設計指針を得る。
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