研究課題
これまでにGa2O3粒子のバルクにCa、表面にZnをドープすると、光触媒活性が飛躍的に向上するが、これはドープしたCaやZnが電子をトラップすることで再結合を著しく抑制するためであることを明らかにしている。しかし、なぜ表面にZnでバルクにCaをドープすることが最も効果的なのか、その原因が分かっていなかった。そこで、本研究ではこの原因を究明した。時間分解分光計測の結果、CaとZnはともに伝導帯の下0.2 eV のところに浅い不純物準位を形成し、その深さはCaとZnでほとんど違いがなかった。しかし、トラップ電子の反応性に大きな違いがあった。Caの場合は気相に導入した水蒸気と電子は光照射100usまでに約50%が反応していたが、Znの場合、65%以上であった。これは粒子表面でトラップされた電子は粒子内部でトラップされた電子よりも反応分子にアクセスしやすい、というモデルで説明できる。一方、ZnとCaを共ドープした場合、トラップ電子は約75%が反応し、反応活性がさらに向上していた。これはバルクから表面にかけてドーパントの濃度勾配ができているためであると考えている。電子の拡散はトラップ準位の電子占有率を一致させる方向に進行する。したがって、ドーパントに濃度勾配がある場合、バルク内部でトラップされた電子は表面に拡散しやすいことが期待される。ZnとCaをそれぞれ表面とバルクにドープした理由は、ZnはCaよりイオン半径が小さいため、Ga2O3粒子の表面に含浸法で高ドープしやすく、Znはアンモニアと水溶性のアンミン錯体を形成するためGa(NO3)3溶液を用いたアンモニア共沈法によってGa2O3のバルクにドープしにくいからである。つまり、ドーパントの化学的特性の違いを利用してドーパントの空間分布をうまく制御すれば、キャリアの動きを制御して活性を飛躍的に向上できることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までに、従来の予想に反して光触媒粒子に形成された欠陥や不純物準位は再結合を抑制し、光触媒活性の向上に役立つことを明らかにした。しかし、今回、このドーパントの空間分布を上手く制御することで、バルクの内部に捕捉され、表面に吸着した分子にアクセスしにくいトラップ電子も、表面に拡散しやすくできることを明らかにした。このようなトラップ電子の拡散を制御することは光触媒活性を制御する上で極めて重要であるが、CaとZnの化学的な特性の違いを上手く利用することで可能であることを示したことが本研究の最も重要な発見である。
欠陥や不純物は光触媒活性の向上に役立つ場合があることを見いだしたが、さらに活性を向上させるためは、これらの準位の深さと空間分布を制御することが重要である。今後、ドーパントの種類やドーピングの方法、加熱処理などによってこれらを制御する研究を継続する。
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