研究課題
D. Sen(Canada)らは、鉄ボルフィリン錯体のヘムはDNAに結合して酸化触媒作用を示す複合体を形成することを発見した。D. Senらのこの発見から20年以上も、当該複合体の機能と構造の関係は不明であった。核酸塩基の配列で、グアニンが豊富な領域はG-カルテットと呼ばれる特徴的な構造の形成を通して、グアニン四重鎖として存在する。本研究は、ヘムがグアニン四重鎖のG-カルテットに特異的に結合し、高い酸化触媒活性を示す複合体(ヘムDNA酵素)を形成することを明らかにした私共の研究成果に基づいて実施した。まず、ヘムDNA酵素の酸化触媒サイクルでは、Compound Iと呼ばれる高い反応性を示すオキソ鉄4価ポルフィリンπカチオンラジカル錯体が反応中間体として生じると予想した。ヘムDNA酵素に過酸化水素(H2O2)を添加して調製した試料の液体ヘリウム温度での電子スピン共鳴(ESR)スペクトルでは、g値約2にCompound I由来のシグナルが観測され、Compound Iの生成を実証することに成功した。また、ヘムDNA酵素の触媒サイクルにおけるCompound Iの生成は、ヘム近傍に核酸塩基アデニンやプロトン化されたアミノ基が存在すると促進されることも明らかにした。これらの官能基は、Compound Iの生成に必要なヘム鉄に結合した過酸化水素のO-O結合の開裂を促進すると考えられる。さらに、ヘムDNA酵素のヘム鉄には、ヘムとG-カルテットの接触界面の疎水性空間に孤立するH2Oが軸配位子として結合することを明らかにすることにも成功した。当該H2Oの分極は通常のH2Oより約16%大きいことが予想されることから、ヘムDNA酵素におけるCompound Iの生成で、当該H2Oがヘム酵素ペルオキシダーゼなどでのヘム鉄の軸配位子ヒスチジンと同様な電子的役割を担っていることが明らかになった。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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