研究課題/領域番号 |
19H02831
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金原 数 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (30282578)
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研究分担者 |
田中 良和 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20374225)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリエチレングリコール / タンパク質凝集抑制 / 変性 / 熱応答性 / AFM / 大環状化合物 |
研究実績の概要 |
1)本研究課題で目的とする合成単分子シャペロン開発において,最も重要な過程である単分散大環状オリゴエチレングリコール骨格の合成について,オクタエチレングリコールを基本単位として,3量体,6量体の環状化合物の効率的な合成に成功した。また,少量ではあるが,さらに大きな多量体についても生成を確認することができ,構造化PEG部の合成ルートの開拓に関して一定の目途をつけることができた。 2)触媒リガンドの前駆体となる分子について,オリゴエチレングリコールを導入した誘導体の合成に成功した。これらの水中での挙動について,興味深い知見を得ることができた。 3)大環状オリゴエチレングリコールの水中での性質について,特に温度応答を中心に検討した。これらの水溶液について,種々の温度において動的光散乱測定することにより,高温では分子の疎水性が増大し,分子集合体形成が促進される様子を確認することができた。 4)上記と関連して,水中での分子の形状についてAFMを用いて単分子観察を行った。その結果,興味深い形状の分子をいくつか確認することができた。 5)大環状オリゴエチレングリコールのタンパク質に対する作用について検討した。具体的には,リゾチームをモデルとして,加熱―冷却操作におけるこれらの分子の凝集抑制効果を検証した。その結果,これらが比較的高い凝集抑制効果を示すことを見いだした。 6)上記と関連して,計算化学的手法により検討を行った。具体的には,大環状オリゴエチレングリコールとタンパク質との相互作用について分子動力学法によるシミュレーションを行なった。その結果,これらが相互作用する様子の観察に成功し,動的挙動の解析を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)本研究における第一の関門は,大環状構造化PEG誘導体の合成を達成することである。これについては,前述したようにオクタエチレングリコールを単位とした,3量体,6量体の合成に成功しており,これにより様々な大きさの誘導体の合成が可能となったと考えられる。 2)触媒リガンドはカチオン性を有する構造であり,水溶性の高いオリゴエチレングリコールを導入した場合,単離精製に困難を伴うことが予想された。反応終了後の操作を工夫することでこれを回避できたが,これは今後の研究進捗のために非常に重要な成果である。 3)これまでの先行研究から,3量体,6量体の構造化オリゴエチレングリコールが温度応答性を有することが分かっていたため,今回もオクタエチレングリコールを基本単位とした誘導体について検討したが,同様に3量体,6量体で温度応答性を有することが確認できた意義は大きい。 4)6量体より大きな誘導体については,AFMにより直接分子の形状を観察できる可能性が強く示唆された。これは,分子レベルでの解析をする上で極めて意義の高い結果であり,特に高分子量のタンパク質を標的にする場合に役立つものと期待される。 5)リゾチームにおいて,凝集抑制効果が確認できたことは,本研究課題の目的であるシャペロン効果を発揮する上で必須の性質であるため,極めて重要である。今後は,他のタンパク質に対する効果を検証することで,最適な分子構造,サイズ等の知見が得られることが期待される。 6)計算化学的手法は,直接観察できない現象の理解の大きな助けになるが,今回,大環状オリゴエチレングリコールとタンパク質の混合系に適用可能であることが確認できた。分子設計の最適化に向けて大いに役立つことが期待される。これら,1)~6)を勘案して,研究課題が概ね順調に推移しているという結論に至った。
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今後の研究の推進方策 |
1)前年度に引き続き,単分散大環状オリゴエチレングリコール骨格の合成法の検討を行なう。オクタエチレングリコールだけでなく,申請者らが合成法を確立した,12量体,16量体の単分散オリゴエチレングリコールを用いた検討により,タンパク質分子集合体に対し作用する分子を開発する。 2)前年度に合成に成功したリガンド部を組み込んだ大環状オリゴエチレングリコール骨格の構築を検討する。特に,3量体,6量体へ導入法を検討する。さらに,このリガンド部を有するGrubbs触媒の合成法を確立する。 3)上記で合成した水溶性Grubbs触媒の反応性を検討し,水中での反応に適した反応基質の探索を行う。また,水中での分子集合挙動を検討し,集合状態が反応性に与える影響を検討する。また,触媒反応の温度依存性についても検討する。 4)前年度に引き続き,リゾチームの他に,自発的リフォールディングを起こしにくく,分子シャペロン効果を検証しやすいタンパク質を用いて,単分散大環状オリゴエチレングリコール誘導体による熱凝集抑制効果を検討する。さらに,分子シャペロン効果の有無について検討する。 5)上記で合成した水溶性Grubbs触媒を用いて,この触媒がタンパク質の構造や活性に与える影響を調べる。さらに,これが反応基質を加えた場合に与える影響について詳細に検討する。続いて,この触媒によるタンパク質の熱凝集抑制効果を検討する。特に触媒単独の場合と反応基質の存在下での効果の差異の有無を中心に調べる。さらに,また,単独のタンパク質だけでなく,タンパク質の凝集体に対しこの触媒を加えた場合の効果についても検討する。 6)前年度に引き続き,分子動力学シミュレーションによる構造化オリゴエチレングリコール分子とタンパク質との相互作用の解析を行なう。
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