研究課題/領域番号 |
19H02837
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊地 晴久 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (90302166)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天然物化学 / 多様性指向型合成 / 非天然型化合物 / 多様性拡大抽出 |
研究実績の概要 |
本研究では,天然由来化合物の探索研究に多様性指向型合成の考え方を組み合わせた手法である「多様性拡大抽出物」を基礎的な技術として活用し,天然資源抽出物に対して,生合成では取り込まれることの無い化学構造を直接反応させることで,従来の研究では生み出されることの無かった「天然化合物を越える多様性」を有した化合物ライブラリーを創出することを目的としている.そのような化学構造として天然化合物にはあまり見られず医薬品に特徴的な分子骨格を有した化合物群の創出を行った.すなわちビアリール,ビアリールエーテル,ビアリールアミン構造といった2つの環構造が直接あるいはリンカーで連結された化学構造を含む化合物群である.具体的には,原料として多数の芳香族化合物を含む植物(ヨロイグサ,カンゾウなど)を用い,それらの抽出物に対してハロゲン化剤を作用させたのち,フェニルボロン酸,フェノール,アニリン誘導体とのカップリングによって,それぞれビアリール,ビアリールエーテル,ビアリールアミン型化合物を含む多様性拡大抽出物を得た.これを各種クロマトグラフィにより分画し,含まれる化合物を単離・構造決定した結果,計15種のビアリールエーテル・アミン型化合物を取得した.これらの大部分は新規分子骨格を有した化合物であった. 得られた化合物について生物活性スクリーニングを行った結果,一部の化合物にATP合成酵素阻害作用,薬物排出トランスポーターABCG2機能抑制作用を見出した.このことから,本研究による「天然化合物を越える多様性」を有した化合物ライブラリーの創出が新規生物活性物質の探索源として有用であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで本研究課題によって,昨年度は数種の生薬を原料とした多様性拡大抽出物から多くの新規非天然骨格を有するインドールアルカロイド型化合物を取得することができている.また今年度は研究実績の項で記したように,多くの新規非天然骨格を有するビアリール,ビアリールエーテル,ビアリールアミン型化合物群を取得することができた.このことは本研究課題の目的に示した「天然化合物を越える多様性」を生み出すことに成功したことを意味している.また,その化合物群から数種の生物活性物質を取得することができており,「天然化合物を越える多様性」を有した化合部群が生物活性物質の探索源としても有用であることを明らかにしている.したがってこれらのことにより,本研究は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後も,本研究の目的が達成できるよう,研究計画にもとづいて推進していく予定である.多様性拡大抽出物を活用した「天然化合物を越える多様性」の創出については,今年度までに行ってきた非天然インドールアルカロイド型化合物,ビアリールエーテル・アミン型化合物だけでなく,テルペノイドとアルカロイドの構造を併せ持ち生物活性物質が数多く知られているテルペノイドアルカロイドについて,新規非天然型骨格を有する化合物を多数取得することに主眼をおいて実施する. また得られた化合物の生物活性スクリーニングについてはこれまでに実施してきた免疫チェックポイント分子に対する発現阻害作用,ATP合成酵素阻害作用に加え,当初から予定していた広範な細胞内シグナル分子に対する影響や,抗マラリア作用・抗トリパノソーマ作用など感染症を引き起こす原虫に対する影響を検討するなど,医薬品のリード化合物となる新規生物活性物質を見いだしていく方針である.
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