研究課題/領域番号 |
19H02843
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研究機関 | 公益財団法人サントリー生命科学財団 |
研究代表者 |
島本 啓子 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所・構造生命科学研究部, 主幹研究員 (70235638)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖脂質 / 疎水性タンパク質 / 相互作用 / シャペロン / 凝集 |
研究実績の概要 |
多くの膜タンパク質は疎水性に富んだ膜貫通領域を持っており、この領域で凝集を起こさないようにタンパク質が合成されると同時にすぐに膜に挿入される。膜タンパク質を膜に挿入するためにはSecトランスロコンと呼ばれる膜透過チャネルが必要であるが、膜貫通部位を1つもしくは2つしか含まずC端が短い膜タンパク質の場合は、Secトランスロコンを必要としない(トランスロコン非依存的膜挿入)。我々は、すべての経路に必須の膜挿入因子としてMPIaseを見出した。 MPIaseは3種類のアミノ糖ユニットの繰り返しからなる糖鎖構造(n=9-11)と脂質部がピロリン酸を介して結合している。 本年度は、活性のある天然MPIaseやMPIaseの最小活性構造(mini-MPIase-3)、不活性な類縁体(mini-MPIase-3(6-OH)、Trisac-DAG)を比較しながらSTD (飽和移動差)NMR実験やSPR (表面プラズモン共鳴)を用いた速度論的な解析を行い、水溶液中においてはMPIase糖鎖と基質タンパク質が相互作用しており、その相互作用に置けるアセチル基やピロリン酸部分の重要性や結合速度に与えるMPIaseの糖鎖長の効果を示した。一般に、トランスロコン非依存性膜挿入を示すタンパク質はC末端部位に塩基性アミノ酸を含んでいることが多く、これら塩基性のアミノ酸がMPIaseのピロリン酸と相互作用する事が膜挿入の鍵になっている可能性が高い。これらのことを踏まえて、我々は基質タンパク質のC末端に存在する塩基性アミノ酸残基とMPIaseのピロリン酸部分がまず相互作用し、その後MPIaseのアセチル基とPf3の疎水性残基との相互作用をきっかけにMPIaseが基質タンパク質を包み込むことでタンパク質の凝集を抑制する過程を推定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非常に疎水性が高く取り扱いが困難なタンパク質だが、末端にタグをつけることでSPR基盤に固定することが可能になった。非特異的な吸着をゼロにすることができず、データの再現性に検討の余地があるが、リン酸基の重要性や糖鎖長による乖離速度の差等について知見を得ることができた。来年度はこれをもとにタンパク質側の相互作用要因を明らかにする計画である。
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今後の研究の推進方策 |
相互作用の鍵と考えられているC末端部分の塩基性アミノ酸残基とピロリン酸との相互作用、またMPIaseのアセチル基とPf3の疎水性部位(helix2)に焦点を当てて、SPRやNMR、計算実験により相互作用部位を特定する。さらに、Pf3は親水性な環境では凝集を起こすことが考えられるが、MPIaseが存在することにより、どのようにその凝集が抑制されていくかをPf3の2次構造変化の観点から解析する。 一般に糖鎖の相互作用は弱いために、糖鎖が集まってクラスターを形成していることが知られている。MPIaseでも膜上で糖鎖が会合している可能性があるが、現時点ではその証拠が得られていない。常磁性緩和促進(PRE),蛍光観察、原子間力顕微鏡(AFM),誘電緩和等種々の方法を用いてMPIaseの会合状態を検証する。
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