膜貫通部位を1つもしくは2つしか含まずC端が短いトランスロコン非依存性膜タンパク質の膜挿入に関わる因子としてはたらく糖脂質MPIaseの活性機構を調べた。 MPIaseは3種類のアミノ糖ユニットの繰り返しからなる糖鎖構造(n=9-11)と 脂質部がピロリン酸を介して結合している。SPR (表面プラズモン共鳴)を用いた速度論的な解析から、長い糖鎖と基質タンパク質の速い結合・解離が重要であることを見出した。リボソームから遊離した基質タンパク質を素早く捕捉することで、タンパク質の凝集を抑制すると考えられる。結合・解離を繰り返しながら、強い負電荷でタンパク質を膜表面まで移送すると推測できる。一方、MPIaseとピロリン酸の結合・解離は遅く、膜表面上にタンパク質を留めることで膜挿入を促進することが分かった。MPIaseの部分構造をもつ類縁体と基質タンパク質のSTD (飽和移動 差)NMR実験やドッキングシミュレーションから、グルコサミン6位のO-アセチル基と基質タンパク質の疎水性アミノ酸残基、ピロリン酸と基質タンパク質の塩基性アミノ酸残基の相互作用が検証できた。基質タンパク質は細胞質内ループの膜貫通領域に近い位置に塩基性アミノ酸を持つことが多く、今回の結果と合致する。さらに、固体NMRや膜環境応答性蛍光解析からは、膜表面よりも膜深部の流動性が膜挿入と強い相関を持つことが明らかになった。MPIaseの長い糖鎖の運動により膜深部の流動性が上がり、膜内に生じたアシル鎖の空隙に、MPIaseから解離した基質タンパク質が移動することで膜挿入の初期段階が進行すると考えられた。
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