研究課題/領域番号 |
19H02848
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 伸一 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20633134)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | チロシン残基 / タンパク質ラベル化 / 標的同定 / 熱変性 |
研究実績の概要 |
タンパク質内部構造に埋もれているチロシン残基が熱変性によりタンパク質表面に露出することに着目した。我々の開発したチロシン残基特異的ラベル化反応はタンパク質表面に露出したチロシン残基で起こるため、タンパク質の熱変性度を高精度に可視化できる手法になると考えた。本研究目的を達成するためには、変性時に露出したチロシン残基を瞬時に修飾する必要がある。そこで、試薬を添加するだけで、迅速に修飾反応が完結するチロシン残基修飾剤の開発に取り組んだ。 従来のチロシン残基修飾剤PTADは試薬を添加した瞬間に反応が完結するものの、水中で求電子性の分解物が生じるため、チロシン残基以外のアミノ酸残基を修飾してしまう副反応が問題であった。そこで、ウラゾール骨格の化合物の誘導化とペプチドを用いた評価実験を通じて、本研究目的に適したチロシン残基修飾剤を見出すことに成功した。本修飾剤によるチロシン残基の修飾効率はタンパク質の変性度に応答して向上することが示唆された。 また、副次的な研究成果として、特定の反応条件において、タンパク質のヒスチジン残基が修飾できることが、タンパク質修飾反応の詳細な解析により判明した。ヒスチジン残基の効率的修飾法は世界的に報告例が少なく、タンパク質化学修飾研究に大きく役立つ成果となる。具体的には一重項酸素を産生する光触媒の近接環境で選択的にタンパク質のヒスチジン残基を修飾する手法を開発すること成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物活性分子と標的タンパク質の結合によりタンパク質の熱変性抵抗性が向上することが知られており、本研究においては、熱変性過程のタンパク質フォールディング変化をとられるタンパク質修飾技術とその解析法を確立することで、生物活性分子の新規結合タンパク質同定法を開発することを目的とした。 本研究では、通常はタンパク質内部構造に埋もれているアミノ酸残基(特にチロシン残基)が熱変性によりタンパク質表面に露出することに着目する。我々の開発したチロシン残基特異的ラベル化反応はタンパク質表面に露出したチロシン残基で起こるため、タンパク質の熱変性度を高精度に可視化できる手法になると考えた。本研究目的に適したチロシン残基ラベル化剤を選定するため、既知のラベル化剤構造を基に構造展開を行い、ラベル化剤ライブラリーを拡充した。アジド基(N3)が導入されたラベル化剤を用いて、付加したタンパク質/ペプチド断片を可視化、検出した。各ラベル化剤を用いて、モデル基質となる精製タンパク質のラベル化を行い、各ラベル化剤でラベル化される残基を解析し、チロシン残基選択性、タンパク質表面への露出度依存性を評価した。その結果、タンパク質熱変性に応答して効率が変化するラベル化剤を見出した。 また、チロシン残基以外にもタンパク質表面のヒスチジン残基を効率的に修飾できる手法の開発にも成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
独自に見出したタンパク質修飾法を用いて、タンパク質の熱変性過程におけるタンパク質のフォールディング変化を捉える手法へと発展させる。通常時はタンパク質の内側に埋もれているアミノ酸残基が熱変性時にはタンパク質表面に露出する。本研究では、それを不可逆的に修飾し解析する。プロテオームスケールのタンパク質混合溶液に対して、タンパク質表面のチロシン残基(もしくはヒスチジン残基)を網羅的に修飾し、修飾されたタンパク質、部位をプロテオミクス手法で解析する。種々の温度条件でタンパク質表面に露出する残基を解析する。また、生物活性物質の添加条件では特定の結合タンパク質が熱変性抵抗性を獲得するため、修飾効率が変化する。そこで、比較対象サンプルとの差分解析により結合タンパク質を同定する手法を確立する。具体的には、修飾されたタンパク質・修飾部位を含むペプチド断片を濃縮し、プロテオミクスで定量解析する。 2020年度から所属研究機関を移し、プロテオミクスのnanoLC-MS/MS実験に必要な機器をセットアップ中である。上記研究を遂行できる研究環境を整備すべく、引き続きセットアップを進め、2021年度内に実験手法を確立する。
|