本研究では、タンパク質の変性を検出する手法や、変性度を定量する手法を開発することを目指した。タンパク質の熱変性を検出する手法は、生物活性物質の標的タンパク質同定に貢献し、その作用メカニズムを明らかにする目的で有用な手法となる。 非変性時においては、一般的にタンパク質構造中の疎水性構造はタンパク質内部構造に埋もれているが、熱変性過程において、タンパク質の表面に露出することが知られている。我々はタンパク質の疎水性アミノ酸残基の一つであるチロシン残基に着目し、これまで研究を行ってきた。我々が開発したチロシン残基特異的ラベル化反応は、タンパク質表面に露出したチロシン残基で起こるため、タンパク質の熱変性度を高精度に可視化できる手法になると考え、実用的かつ効率的なタンパク質構造中のチロシン残基修飾法を開発した。 また、本研究の副次的な成果によって、タンパク質のヒスチジン残基を修飾する手法の開発に成功した。そこで、チロシン残基、ヒスチジン残基修飾法のそれぞれの反応条件をさらに検討し、反応効率の向上、実験操作簡便性の向上を目指した研究を展開した。 チロシン残基修飾反応については、細胞破砕液中の全タンパク質を対象とした網羅的な修飾法開発に成功した。4000を超える部位でのチロシン残基の修飾反応を質量分析により解析することに成功した。ヒスチジン残基修飾に関しては、細胞内にも送達可能な光触媒を見出した。さらに、光触媒分子の近接環境で特異的に進行する反応へと応用し、生物活性分子の標的同定に資する新たな手法を開発するに至った。
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