研究課題/領域番号 |
19H02849
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
多喜 正泰 名古屋大学, 物質科学国際研究センター(WPI), 特任准教授 (70378850)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オルガネラ染色剤 / 超解像イメージング / マルチカラーイメージング / ミトコンドリア / リソソーム / 脂肪滴 / 超耐光性蛍光色素 |
研究実績の概要 |
細胞内のオルガネラ連携や生物学的役割の多角的な理解を推進するため,超解像STED顕微鏡によるライブセルイメージングを可能にするオルガネラ染色剤の開発に取り組んだ.本年度は,はミトコンドリア,リソソーム,および脂肪滴染色剤を開発し,その性能をSTED顕微鏡で評価した.特にマルチカラーSTEDイメージングの実施に向け,ストークスシフトが異なる蛍光色素骨格を用いた. ミトコンドリアマーカー:これまでの研究で,ナフトホスホール色素を基盤とした分子により,ミトコンドリア内膜動態のSTEDイメージングを達成してきたが,さらに長波長化を誘起するため,ビスホスホール骨格を採用し,種々のミトコンドリア染色剤を合成した.いずれも大きなストークスシフトを有し,低極性環境で強い蛍光を示すことがわかった. リソソームマーカー:ナフトホスホール骨格に対し,リソソーム局在性をもたせるように修飾することで,超耐光性リソソーム染色剤とした.環境応答性を付与することにより,リソソーム膜の超解像イメージングに成功した.また,ストークスシフトが小さい色素として,我々が開発した近赤外蛍光色素PREX 710に着目し,リソソーム染色剤としての展開について検討した.その結果,アミノ基の置換基の種類に応じて色素の細胞内局在が変わり,アザビシクロヘプタンを用いた場合,pH非依存的にリソソームが染色されることを見出した. 脂肪滴マーカー:チエノ[3,2-b]チオフェン構造をもつBTBT骨格を基盤に分子を作り込み,超耐光性の脂肪滴染色剤を開発した.長時間観察でもほとんど褪色せず,マルチカラーイメージングで脂肪滴動態を明瞭に捉えることができる.また脂肪滴特異性に優れ,STEDイメージングにより,ごく微小の脂肪滴を観察することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画ではオルガネラ染色剤の開発であったが,環境応答性を巧みに利用することにより,オルガネラ膜構造を選択的に標識できるようになった.この意義は,オルガネラ連携における膜ダイナミクス解析において非常に大きい.実際,環境応答性の超耐光性蛍光色素を基盤としたLysoPB Yellowで染色した細胞をSTED顕微鏡で観察すると,リング状の膜構造を明瞭に検出することができた.本成果はACS Mater. Lett誌に採択された. また,リソソーム染色剤については,これまで色素にアミノ基を導入し,pH依存的に集積させる方法が主流であった.しかし,本研究で開発した近赤外蛍光色素は,様々なpH領域でもリソソームを修飾することができる.これは当初予定していない結果であり,一連の誘導体合成で発見された興味深い現象である.実際,本成果はChem. Eur. J.誌のHot paperとして採択された.以上の成果は,当初計画以上のものといえ,本評価に至った.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,各オルガネラ染色剤を組み合わせ,オルガネラ相互作用における膜構造変化をマルチカラーSTEDイメージングによってリアルタイムに可視化する. STED顕微鏡の撮像条件の最適化:まず,各オルガネラ染色剤についてSTED撮像条件(励起波長,蛍光検出波長,レーザーパワー等)を最適化する.CW-STEDによる超解像画像取得において特に重要なパラメーターはSTEDレーザー強度と励起用のレーザーパルスと STED 用のレーザー光との間の遅延時間である.それぞれの染色剤の組み合わせを考慮し,マルチカラーSTEDイメージングの条件を定める. マルチカラーSTEDイメージング:飢餓状態にある細胞のオルガネラ膜動態は生物学的な関心が高い.マルチカラーSTEDイメージングを行い,オルガネラ接触領域における膜間相互作用や脂肪滴が関与するオルガネラ動態を連続的に観察する. 得られる画像から色素の局在をサブオルガネラレベルで検証するため,プロテオーム解析を実施する.まず,色素骨格と結合するポリクローナル抗体を受託で作製する.同時に,蛍光色素がターゲット上に保持されるように,色素周辺にタンパク質と共有結合できる官能基を導入しておく.染色した細胞の破砕液に対して免疫沈降処理を施し,LC-MS/MSからターゲットタンパク質および蛍光標識部位を同定する.これらの課題は名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の佐藤良勝准教授(超解像イメージング)ならびに桑田啓子助教(プロテオーム解析)とそれぞれ連携して遂行する.
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