得られたFTO選択的阻害剤候補化合物のFTOへの作用様式を検討した結果、基質RNAや補因子の鉄イオン、αケトグルタル酸の濃度には阻害活性は依存せず、系中のL-アスコルビン酸の濃度に阻害活性が影響を受けることを見出した。しかし、FTOに対するL-アスコルビン酸の役割は不明であり、候補化合物を細胞内で用いるための誘導化を行うためにも、FTOに対するL-アスコルビン酸の寄与に関する知見を得ることが先決だと考えた。その結果、アスコルビン酸はALKBH5によるm6Aの脱メチル化には必須ではないが、FTOによるm6Aの脱メチル化反応には必須であること、アスコルビン酸以外の代表的な還元剤では代替できないこと、そしてアスコルビン酸はFTOに直接結合するということを見出し、既知のFTO阻害剤とは全く別の機構で作用するFTO阻害剤/活性化剤の開発につながる知見を得た。また、ウイルスRNAとm6A修飾との関係性に関して、これまでに、ウイルスゲノムに存在するm6Aのバイオインフォマティクス解析から、ジカウイルスやHIVのゲノムRNAにおいて、グアニン四重鎖構造と呼ばれる核酸高次構造の形成が可能なRNA配列近傍にm6Aが存在することが示唆されていた。本年度は、RNAメチル基転移酵素であるMETTL3/METTL14ヘテロダイマーが、グアニン四重鎖構造に高い結合親和性で結合すること、またその結合は、METTL14に存在するアルギニンとグリシンに富んだ領域を介して生じることを明らかにし、ウイルスゲノムにおけるグアニン四重鎖構造形成配列とm6Aとの関係性を支持する実験結果を得た。この結果は、グアニン四重鎖構造のウイルス感染における新たな役割を示唆する。
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