研究課題
コバレント阻害剤は求電子的な反応基を持ち、求核的アミノ酸残基との共有結合の形成によって標的タンパク質の機能を不可逆的に阻害する。標的以外の生体分子との非特異反応に起因する毒性の懸念から、従来の創薬研究では避けられる傾向にあったが、近年では論理的に設計された標的タンパク質高選択的なコバレント阻害剤 (targeted covalent inhibitors, TCI) が注目されている。しかし、従来のTCIに用いられるアクリルアミドは分子構造によっては時間・濃度依存的な非特異反応を起こすことから、申請者らは標的選択性を高めるための新たな反応基の探索を行った。その結果、従来の反応基よりも穏やかにシステイン残基と反応するクロロフルオロアセタミド (CFA) 基を見出し、EGFRやBTKといったキナーゼを標的とした新規不可逆阻害剤への応用に成功した。本研究では、システイン残基を狙った新たな求電子基として、特異な立体構造と大きなひずみエネルギーを有するビシクロブタンに着目した検討を行っている。当該年度はビシクロブタンの効率的合成法の確立と、反応性評価を実施した。種々検討の結果、市販の3-オキソシクロブタンカルボン酸から、ビシクロブタンカルボン酸エステルおよびアミド誘導体を簡便に得る合成法を確立した。また、あらかじめビシクロブタン環を構築した活性エステルを合成し、各種脂肪族アミンを簡便かつ迅速にビシクロブタンカルボン酸アミドに変換するスループット性の高い手法も確立した。反応性評価の結果、ビシクロブタンカルボン酸アミドが、グルタチオンや生細胞プロテオームに対してCFAと同等の穏やかな反応性を示すことを見出した。さらに、既存のBTK阻害剤骨格にビシクロブタンカルボン酸アミドを導入した誘導体を合成し、可逆的相互作用に基づく標的タンパク質のラベル化への応用を検討した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の検討により、ビシクロブタンカルボン酸エステルおよびアミドの効率的合成法を確立した。また、反応性評価により、ビシクロブタンカルボン酸アミドが、モデルチオールであるグルタチオンや生細胞プロテオームに対し、CFAと同等の穏やかな反応性を示すことを明らかにした。そこで現在、ビシクロブタンカルボン酸アミドがコバレント阻害剤に応用可能であることを示すため、BTKを標的とした新規不可逆阻害剤の開発を検討している。既存のBTK阻害剤骨格にビシクロブタンとアルキンタグを導入したプローブを合成し、Ramos細胞中のBTKの蛍光ラベル化を検討した結果、ビシクロブタンカルボン酸アミドが可逆的相互作用に基づくタンパク質のラベル化に利用できることを見出した。
当該年度の検討結果から、ビシクロブタンカルボン酸アミドが、申請者らがこれまでに見出したCFAと同等の穏やかな反応性を示すことを明らかにした。そこで、今後はビシクロブタンカルボン酸アミドのコバレント阻害剤への応用を検討する。すでに既存のBTK阻害剤骨格にビシクロブタンカルボン酸アミドとアルキンタグを導入したプローブを合成し、生細胞中のBTKの蛍光ラベル化に成功した。しかし、アクリルアミドやCFAを反応基とするプローブと比べ、BTKのラベル化効率が不十分であるため、骨格と反応基を結ぶリンカー構造の最適化により、既存の反応基と同等の反応性を目指し検討を行う。ラベル化効率の向上を実現したのち、蛍光ラベル化や質量分析を用いたケミカルプロテオミクスにより、標的タンパク質選択性を既存の反応基と比較する。
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ACS Medicinal Chemistry Letters
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ファルマシア
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