研究課題/領域番号 |
19H02856
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
喜井 勲 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (80401561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リン酸化酵素 / DYRK1A / フォールディング / 阻害剤 / 低分子化合物 / キノーム / 自己リン酸化 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
本研究では、このフォールディング中間体特異的阻害の概念を、ヒトゲノムにコードされる全518種類のタンパク質リン酸化酵素へと拡張し、リン酸化酵素フォールディング中間体に対して、化合物がどのような阻害プロファイルを示すかを網羅的に評価する実験系を構築する。 2020年度の研究では、(1)2019年度に課題として浮上したin vitro translation無細胞タンパク質発現系での自己リン酸化活性の低さを解決する方法として、リン酸化酵素のN末端にあるタグを導入する方法を発見した。令和3年度は、このタグ付与が無細胞タンパク質発現系でのリン酸化酵素の自己リン酸化活性の向上に対して、どのような分子メカニズムで、どの程度の汎用性をもって利用できるのかを研究する。これにより、当初の目的であった、全リン酸化酵素の無細胞タンパク質発現系による自己リン酸化の網羅的解析の実現を目指す。 また(2)2019年度から進めていたリン酸化酵素の活性ドメインに対するフォールディング中間体選択的阻害剤の作用を直接検出するシステムの構築をさらに進め、高い汎用性のあるシステムの構築に成功した。具体的には、市販品の精製リン酸化酵素タンパク質と選択的阻害剤を混合し、その溶液を瞬間的に加熱・冷却することで、選択的阻害剤が標的酵素に対して結合し、その活性を阻害することを明らかにした。これは、瞬間的な加熱により、フォールディングが部分的に解け、フォールディング中間体に類似した構造が出現したことを意味している。加熱・冷却条件や添加剤などをさらに検討した結果、現時点で少なくとも5種類のリン酸化酵素に対して適用可能なフォールディング中間体選択的阻害の評価系の構築に成功した。我々は、この技術を「温度ジャンプ」と命名した。本技術については2020年12月に特許を出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたin vitro translation無細胞タンパク質発現系でのリン酸化酵素の自己リン酸化の網羅的解析は、この発現系でのリン酸化酵素の活性低下などの問題により、遅れている。一方、2020年度の研究により、リン酸化酵素のN末端へのタグの付与により、自己リン酸化活性を大幅に向上させることができることが判明したため、この技術を活用することで、当初の目的であった、全リン酸化酵素の無細胞タンパク質発現系による自己リン酸化の網羅的解析の実現を目指す。 また、「温度ジャンプ」と命名した技術は、非常に安価、かつ容易に、フォールディング中間体選択的阻害剤の活性を評価することができ、事実上、市販のリン酸化酵素タンパク質があれば、全てのリン酸化酵素に対して適用可能な状況に到達している。予算の関係上、全てのリン酸化酵素タンパク質を購入して実施することは不可能であるが、上記の無細胞タンパク質発現系と組み合わせることで、可能な限りキノームを網羅する形でのシステムへと昇華させる。現在、温度ジャンプを用いた小規模スクリーニングや、DYRK1A以外のリン酸化酵素での温度ジャンプ実験も実施しており、少なくともDYRK1Aに対するフォールディング 中間体選択的阻害剤は、他のリン酸化酵素に対して、温度ジャンプでの阻害活性は低く、選択性を吟味することが可能なシステムであると言える。 温度ジャンプ技術による別ルートでの解析が順調に進んでいるため、(2)おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方針は以下の2つである。 (1)in vitro translation無細胞タンパク質発現系を用いてタンパク質リン酸化酵素を発現させるシステムを改善する。具体的には、N末端へのあるタグの付与と、その後の発現、さらに自己リン酸化の検出である。DYRK1Aと1Bで技術の精度を確認し、その後、他のリン酸化酵素へと展開する。このタグ付与が普遍的にリン酸化酵素の活性向上に寄与する可能性が期待されるため、この他の様々な用途への応用も検討する。 (2)温度ジャンプの普遍性をさらに確かめる。具体的には、現在までにデータを取得したDYRK1A, DYRK1B, SRC, ABL以外に複数のリン酸化酵素タンパク質に対して温度ジャンプを行い、阻害剤の選択性を調べるに足る技術かどうかを検証する。さらに、温度ジャンプを用いた小規模化合物スクリーニングを実施し、中間体選択的阻害剤の取得に活用できるかを検証する。 リン酸化酵素タンパク質の購入には多額の予算が必要となるため、応用展開を指向したグラントの獲得も進める。具体的には、A-STEPやNEDOを想定している。
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