研究課題/領域番号 |
19H02861
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
齋藤 勝晴 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (40444244)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 菌根 / 共生 / 脂質 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の2つの課題を実施し、菌根共生に関与する植物の脂質合成・輸送・制御機構の一部を明らかにした。 1.脂質合成関連遺伝子の機能解析:脂肪酸合成関連遺伝子については、ミヤコグサ菌根で発現誘導されるアシルCoA合成酵素(LACS)の過剰発現個体を作出し菌根菌感染を評価した。しかし、個体間のばらつきが大きく菌根形成におけるLACSの効果を明らかにすることができなかった。また、組み換えLACSタンパク質を大腸菌で発現させ生化学的解析を試みたが、可溶性画分にLACSが得られず脂肪酸に対する特異性を明らかにすることができなかった。 2.脂質輸送遺伝子の機能解析:脂質輸送に関しては、菌根誘導性の脂質輸送タンパク質(LTP)とGDSLリパーゼに着目して、RNAi法で発現抑制系統を作出を試みた。LTPについては、局在解析のため抗LTP抗体を作成し、生化学的解析のため組み換えタンパク質を精製した。 3.脂質合成制御遺伝子の機能解析:菌根特異的脂質合成の制御に関わると考えられるWRI5転写因子については、1年目にRNAi系統を用いてWRI5が菌根形成に関与することを明らかにしたが、より詳細に機能解析を行うため、挿入変異体についても単離を行った。 4.脂質同定:脂質合成変異体を用いて植物から供給される脂質を推定するため、根からのsn-2モノアシルグリセロールの抽出・精製法を検討した。非共棲培養においてアーバスキュラー菌根菌がミリスチン酸を吸収しエネルギー源と炭素骨格源として利用することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.脂質合成関連遺伝子の機能解析:菌根共生におけるLACS遺伝子の機能解析を進めたが、過剰発現実験系が安定しなかったことと、生化学的解析に利用できる組み換えタンパク質が得られなかったため、機能を十分には明らかにすることができなかった。実験条件のさらなる検討が必要である。 2.脂質輸送遺伝子の機能解析:脂質輸送タンパク質(LTP)の解析については、RNAi実験系の準備や抗体の作成、組み換えタンパク質の精製までは完了したが、機能解析までは進むことができなかった。 3.脂質合成制御遺伝子の機能解析:WRI5転写因子の解析については、下流遺伝子の探索のためのRNAi系統や挿入変異体の単離までは完了したが、遺伝子発現解析までは進むことができなかった。 4.脂質同定:脂質分析のための条件検討ができたため、最終年度に各種変異体に安定同位体標識化合物を投与し脂質の質量分析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の4つの課題を実施し、菌根共生に関与する植物の脂質合成・輸送・制御機構を明らかにする。 1.脂質合成関連遺伝子の機能解析:脂肪酸合成関連遺伝子については、脂肪酸の活性化に関与するアシルCoA合成酵素(LACS)について菌根共生における機能を解析してきたが、本年度は細胞内局在や生化学特性について解析する。 2.脂質輸送遺伝子の機能解析:脂質輸送に関しては、菌根誘導性の脂質輸送タンパク質(LTP)とGDSLリパーゼについて引き続きRNAi法で発現抑制系統を作出し、菌根共生の表現型を解析するとともに、その局在を免疫電顕で解析する。 3.脂質合成制御遺伝子の機能解析:菌根特異的脂質合成の制御に関わると考えられるWRI5転写因子について、WRIの下流で働くと考えられる脂肪酸代謝関連酵素遺伝子にターゲットを絞ってRNAi系統を用いて遺伝子発現解析を行う。 4.脂質同定:昨年度に引き続き、各種共生変異体を利用して、脂質を分析し輸送される脂質を推定する。脂質/脂肪酸の分析には、LC-MS/MSやガスクロマトグラフィーを利用する。
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