研究課題/領域番号 |
19H02862
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 彰 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50231098)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 土壌化学 / 土壌有機物 / 炭素蓄積 / 腐植物質 |
研究実績の概要 |
結合型SOCの形成に対する微生物由来Cの寄与を評価するために、土壌(名大附属農場畑土)に13C標識または非標識グルコースを添加培養し、1および3ヶ月後に回収した。比重分画を行って得た結合型SOCの13C NMRスペクトルを測定した結果、非標識グルコース添加土壌よりもアルキルCやカルボキシCのシグナルが強い等の差異が認められた。別途培養した土壌細菌、糸状菌とのスペクトルの比較より、主に細菌由来Cがその差に寄与していることが示唆された。また、土壌中で安定性が高いと推察される結合型ヒューミンの構造的特徴を明らかにするために、黒ボク土、褐色森林土、灰色低地土、チェルノーゼム、厩肥連用下の黄色土から、アルカリ抽出による可溶性腐植の除去、ソクスレー抽出による脂質の除去、重液による遊離型および隔離型ヒューミンの除去により、結合型ヒューミン11試料を調製した。うち6試料について13C CP/PASS NMRスペクトルの測定、熱的支援加水分解およびメチル化(Thermally-assisted Hydrolysis and Methylation; THM)-GC/MSによる構造成分の解析を行った。収量と元素分析に基づき、結合型ヒューミンCが全土壌Cの20~50%を占めることを明らかにした。13C CP/PASS NMRから求めたC組成は土壌間で大きく異なったが、未分画ヒューミンと比較すると、全体的にO-アルキルCが多く、芳香族Cが少ない特徴が認められた。また、THM-GC/MSで検出された化合物群の収量もこれを支持した。さらに、THM-GC/MSでは共通して菌体から多く検出されたN化合物やポリフェノールの収量が高い一方、植物由来の長鎖モノカルボン酸、ジカルボン酸、ベンゼンポリカルボン酸、リグニンフェノールも含むことが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体NMR、同位体質量分析計の故障により、トレーサー実験における13C濃度の測定や13C NMRスペクトルの測定が一部できず、研究成果の発表には至らなかったが、試料調製は済んでいることから、次年度中の完了は十分可能と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
結合型ヒューミンの実体解明について、結合型ヒューミンの構造解析を継続し、既存のフミン酸に関するデータと比較して、両画分の構造の異同を明らかにする。結合型SOCの形成について、13C標識実験を継続し、培養6ヶ月後土壌を中心に、全土壌、微生物バイオマス、比重分画で得られる存在形態別各SOC画分中の標識C量を推定する。また、少ない積算回数で13C NMR測定を行うことで、標識Cに由来するシグナルを検出し、結合型SOC全体のスペクトルと比較する。さらに、THM-GC/MS分析を行って、菌体中のどういう成分が主に結合型SOCとして蓄積しやすいのかを解析する。腐植物質の生成過程について、リグニンをモデル前駆体とした培養実験を継続し、腐植物質の一部に相当する構造に至るかを確認する。スギ材微粉末をセルラーゼで処理した後、ジオキサン-塩酸加水分解して得たEn-Hy-リグニンを基質として用いるほか、リグニンモノマーとしてバニリン、バニリン酸を基質として用いる系、鉄-過酸化水素(フェントン反応)によりEn-Hy-リグニンを分解する系を用いる。分解生成物は、腐植各画分の存在比(腐植組成)、黒色度、分子サイズ分布(HPSEC)、FT-IRおよび13C CP/PASS NMRスペクトルの測定、THM-GC/MSによる構造成分の解析を行う。また、腐植物質の分解性と化学構造との関係について、物理的、化学的保護が受けられない条件下で、フミン酸、フルボ酸の分解性が黒色度や化学構造に依存しているかどうかを確認するための培養実験を行う。
|