研究課題/領域番号 |
19H02863
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
横田 篤 北海道大学, 農学研究院, 教授 (50220554)
|
研究分担者 |
和田 大 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (00301416)
片岡 尚也 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (50713509)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 大腸菌 / 呼吸鎖 / グルタミン酸 / γ-アミノ酪酸 |
研究実績の概要 |
I. 大腸菌の呼吸鎖欠損ΔΔ株の異常な糖代謝の機構解明(北大:横田/和田):野生株W1485から取得したΔΔ株(NDH-IとCytbo3を共に欠損)をグルコース無機塩培地でジャーファーメンター培養した。その結果ΔΔ株では野生株と比べ、糖消費活性と呼吸活性の著しい上昇、酢酸の生成、NADHの滞留、グルタミン酸(Glu)の著量蓄積などの異常な糖代謝を示した。さらにメタボローム解析、RNA-Seqによる遺伝子発現解析により、ペントースリン酸経路、酢酸生成経路に加えて、Gluをγ-アミノ酪酸(GABA)に変換するグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子gadABの発現上昇が認められた。さらにGABAをコハク酸セミアルデヒドに変換する2-オキソグルタル酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子(gabT)、コハク酸セミアルデヒドをコハク酸に変換するコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素遺伝子(gabD)の発現上昇も認められた。 II. Glu/GABA系の活性強化による大腸菌の酸耐性向上(北大:和田/横田): GadABの反応は大腸菌において酸耐性に寄与するとされるため、野生株を宿主としてプラスミドによりGadB遺伝子の増幅を試みた。GadBの至適pHは3.8なので、中性でも活性を持つ変異型酵素GadB*遺伝子の増幅も検討した。しかし両遺伝子とも高発現が達成されず、酸耐性は向上しなかった。 III. ΔΔ株を宿主とした1,3-ブタンジオール(1,3BD)生産の効率化(山口大:片岡/北大:横田):ΔΔ株は糖代謝が亢進して1,3BDの生合成前駆体となるアセチルCoAやNADHの供給が強化されていると考えられる。そこで1,3BD生成プラスミドpNK3を大腸菌MG1655から誘導したΔΔmg株 に導入し、ジャーファメンターを用いて生産性を評価した。 1,3BD収量に大差は見られない一方で、ΔΔmg株では高い収率を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I. 大腸菌の呼吸鎖欠損ΔΔ株の異常な糖代謝の機構解明(北大:横田/和田):研究実績の概要には記載できなかったが、野生株W1485から取得したΔΔ株(NDH-IとCytbo3を共に欠損)に加えて、プロトン駆動力(pmf)形成能の異なるNDH-I単独欠損株、Cytbo3単独欠損株と野生株の4株を用いて(予想pmf形成能:野生株>NDH-I欠損株≒Cytbo3欠損株>ΔΔ株)、発酵解析、メタボローム解析、RNA-Seqによる遺伝子発現解析を行い、各株間で相互比較し、pmfの低下度合いと相関するストレス応答を抽出し、異常な糖代謝の概要を明らかにすることができたと考えている。 II. Glu/GABA系の活性強化による大腸菌の酸耐性向上(北大:和田/横田): 酸耐性の向上は達成できなかったが、gadBの高発現が思いの外困難であったことから、RNA-Seqによる遺伝子発現解析の結果だけでなく、実際の酵素活性としての発現まで検証する必要があることを認識した。 III. ΔΔ株を宿主とした1,3-ブタンジオール(1,3BD)生産の効率化(山口大:片岡/北大:横田):元々プラスミドpNK3による1,3BD生産システムは、W1485株ではなくF因子を保持しないMG1655株をベースにしていた。このためF因子を保持するW1485株由来のΔΔ株には適用できないと考え、 昨年度はMG1655を親株に新たに呼吸鎖欠損株ΔΔmgを誘導し、1,3BD生産を評価した。期待通りΔΔmg株ではMG1655株より高い1,3BD収率を示したが、得量は向上しなかった。MG1655株はW1485株に比べて糖代謝が遅い欠点があった。
|
今後の研究の推進方策 |
I. 大腸菌の呼吸鎖欠損ΔΔ株の異常な糖代謝の機構解明(北大:横田/和田):今回明らかになったgadABやgabTDの高発現を基にして、これらの遺伝子のノックアウト変異株の構築と発酵解析により、Gluの異常蓄積機構を検討する。その他異常代謝が酸化還元バランスの還元方向への偏りに起因する可能性を検証するため、NDH-IIの高発現を試みる。これらの検討によりΔΔ株の異常な糖代謝の機構解明に迫る。 II. Glu/GABA系の活性強化による大腸菌の酸耐性向上(北大:和田/横田):今回RNA-Seqによる遺伝子発現解析の結果明らかとなった重要と思われる発現の変化を、酵素活性の測定を行うことにより活性レベルでも検証する。これにより酸耐性以外にも広く大腸菌の強靭化の方策を考えてゆく予定である。 III. ΔΔ株を宿主とした1,3-ブタンジオール(1,3BD)生産の効率化(山口大:片岡/北大:横田):今後はW1485からのΔΔ株へのpNK3導入による1,3-BD生産株の構築、および 1,3BD生産培養条件の検討として通気撹拌条件など、アセチルCoAやNADHが1,3BD 生産に効率よく利用される条件を設定する。
|