研究実績の概要 |
I. 大腸菌の呼吸鎖欠損ΔΔ株の異常な糖代謝の機構解明 (北大:横田/前田):ΔΔ株(NDH-IとCytbo3を共に欠損)は、グルタミン酸(Glu)を著量蓄積する。本年度は、この原因解明を目指し、Glu脱水素酵素(GDH)とGlu合成酵素(GOGAT)に着目して、これらの遺伝子をΔΔ株から欠損させ、Glu生産への影響を解析した。その結果、どちらの遺伝子を単独で欠損させてもΔΔ株のGlu生産量に有意な差は生じなかった。一方、両方の遺伝子を同時に欠損させた場合、ΔΔ株はGlu要求性を示した。このことから、∆∆株におけるGluの著量蓄積は、GDHとGOGATのどちらか片方の酵素が存在すれば十分であることが明らかとなった。 II. GABA生産株の育種 (北大:前田/横田):中性で活性を示す変異型GadB*遺伝子を野生株とΔΔ株に導入したところ、ΔΔ株は野生株と比較して1.5倍以上の高いGABA生産量を示した。このことから、ΔΔ変異はGABAの高生産株育種において有用な変異であることを示すことができた。 III. ΔΔ株を宿主とした1,3-ブタンジオール(1,3-BD)生産の効率化 (山口大:片岡/北大: 横田): 本年度はまず、ΔΔ株で確認された酢酸の蓄積を抑制しうる可能性があるピルビン酸酸化酵素および可溶性トランスヒドロゲナーゼの欠損効果を評価したが、酢酸生成をより高める結果となった。これは、各遺伝子の欠損によりエネルギーレベルが低下し、その補完のために酢酸生成をさらに亢進した結果と考えられた。これを受けて、ΔΔ株での流加培養を検討した。その結果、高い1,3-BD生産収量を達成できた。これらと並行して、ΔΔ株の生産宿主としての汎用性を評価するべく、3-ヒドロキシ酪酸生産に焦点をあて培養条件を種々検討したが、ΔΔ株利用の有効性を示すには至らなかった。
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