研究課題/領域番号 |
19H02864
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五味 勝也 東北大学, 農学研究科, 教授 (60302197)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 薬剤耐性 / 糸状菌 / 転写因子 / エルゴステロール生合成 / 細胞壁合成 |
研究実績の概要 |
AtrRのN末端側とC末端側にそれぞれGFPを連結した融合タンパク質の発現株を作製してAtrRの細胞内局在を蛍光顕微鏡により観察を行った結果、AtrRは構成的な核局在を示した。また、AtrRに存在する3つの推定核移行シグナル(NLS)それぞれに変異導入したところ、C末端側に位置するNLS3がNLSとして機能していることが明らかになった。一方、SrbAは核周辺に局在し、他の真菌と同様に嫌気性条件下やアゾール系薬剤処理条件下ではDNA結合ドメインを含むN末端側が切断され、核に移行することが示された。 AtrRにFLAG、SrbAにGFPを付加して宿主株に導入・発現させ、共免疫沈降法により両転写因子の複合体形成の有無を調べたが、非特異的シグナルの影響で今のところ明確な相互作用は検出できていない。 AtrRやSrbA以外の薬剤耐性に関わる転写因子を探索するため、キャンディン系、ポリエン系、アリルアミン系の抗真菌薬剤を含む寒天培地に、麹菌の転写因子遺伝子の破壊株ライブラリー約600株を植菌し、超感受性または耐性を示す株をスクリーニングしたが、感受性に顕著な違いを示す株は得られなかった。一方、細胞壁合成阻害剤であるカルコフロールホワイト(CFW)とコンゴーレッド(CR)についても転写因子破壊株ライブラリーから感受性を示す株をスクリーニングした結果、MedAとSfgAの2つの転写因子破壊株が感受性を示すことを見出した。CFWやCRは細胞壁成分のキチンやβ-グルカンに吸着するが、本来それらを被覆しているα-グルカンが減少あるいは消失することで感受性を示すことから、α-グルカン合成に関与する遺伝子の発現量を定量PCRで解析したところ、α-グルカン合成に重要であると考えられているagsBの発現量は2種類の転写因子破壊株では野生株の半分程度に減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AtrRやSrbAの細胞内局在は観察できているものの、共免疫沈降法による両転写因子の相互作用の有無については非特異的バンドの影響が大きく明確な結果が得られていない。付加するタグを変更することやBiFC法による相互作用の有無の観察を今後進めることとしている。一方、キャンディン系、ポリエン系、アリルアミン系の抗真菌薬剤に対する感受性(耐性)を示す転写因子候補は残念ながら見出すことができなかった。しかし、細胞壁合成阻害剤であるCFWとCRに対して高い感受性を示す転写因子破壊株として、MedAとSfgAの2つの転写因子破壊株を見出すことができた。MedAは分生子形成を正に制御する転写因子、SfgAは分生子形成を負に制御する遺伝子群の活性化に関わる転写因子であり、いずれの転写因子も細胞壁のストレス感受性に関わるような報告はなされておらず、新規な転写因子の機能を見出すことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)エルゴステロール生合成酵素遺伝子の発現制御におけるAtrRとSrbAの相互作用解析:AtrRとSrbAのそれぞれにFLAGとmycまたはHAタグを付加して宿主株に導入・発現させ、共免疫沈降法により両転写因子の複合体形成の有無を検出する。また、AtrRとSrbAのそれぞれにVenusのN末端とC末端を連結させたコンストラクトを麹菌に導入し、両転写因子の分子間の相互作用の有無をBiFC(Bimolecular Fluorescence Complementation)法により検出する。 2)カルコフロールホワイト(CFW)とコンゴーレッド(CR)感受性に関与するMedAとSfgAの機能解析:それぞれの破壊株に野生型遺伝子を相補させた株を作製し、野生株の表現型への回復ならびにα-グルカン合成酵素遺伝子の発現量の復帰を確認する。また、破壊株の細胞壁構成成分の解析を行う。MedAとSfgAにより制御される遺伝子群の網羅的な探索を行うために、野生株と破壊株を用いたRNA-seq解析により、発現量に変化を示す遺伝子を見出す。見出された遺伝子についてはqRT-PCRにより発現量の確認を行うとともに、それらの遺伝子の機能解析も進める。
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