研究課題/領域番号 |
19H02865
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永田 裕二 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (30237531)
|
研究分担者 |
大坪 嘉行 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (40342761)
加藤 広海 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90727265)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 環境細菌 / 極貧栄養環境 / 細菌コミュニティ / バイオレメディエーション / 炭酸固定 |
研究実績の概要 |
有用細菌の実環境利用における問題の主因は、細菌の環境での生き様が十分に理解されていないことによる。本研究では、環境汚染物質である有機塩素系殺虫剤HCH分解細菌株をモデルとして、(1)極貧栄養条件下での適応・増殖戦略と、(2)当該物質分解コミュニティに共在するが分解能を持たない他細菌株との関係性に着目し、環境細菌の実環境での生き様の理解を深める。さらに、(3)分解細菌の効果を最大限に発揮するための具体的接種方法を提示し、実環境での有用細菌株の効率的利用のための理論的基盤を構築する。 本年度は、各項目について以下の成果を得た。(1)HCH分解細菌UT26株においてアルコールデヒドロゲナーゼをコードするadhX遺伝子が高発現すると有機炭素源非添加の無機固体培地上でもコロニー形成するhigh-yield growth under oligotrophic conditions (HYGO) 表現型(論文発表に伴い呼称を変更)を示す現象について解析を進め、(i) qTn-Seq法に用いる約10,000クローンからなるHYGO株のTn変異株ライブラリーを完成させ、qTn-SeqやRNA-Seq等の網羅的解析のための培養条件を検討した。また、機構解明に繋がるいくつかの興味深い現象を見出した。(2)HCH分解細菌コミュニティに関する研究では、非分解細菌の存在がコミュニティ全体のfitnessの上昇に作用する機構に関する知見を得た。また、プレート上で非分解細菌が分解細菌の膜成分を認識し、接近する可能性が示唆された。(3)得られる知見の応用への展開では、土壌マイクロコズムを用いて、HCH分解細菌株の土壌生残性と分解活性に与える因子に関する実験を進め、土壌の状態によって効果にバラツキがあることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HCH分解細菌UT26株においてadhX遺伝子が高発現すると有機炭素源非添加の無機固体培地上でもコロニー形成するHYGO表現型の機構解明に繋がるqTn-Seqライブラリーを完成させると共に、qTn-Seq法やRNA-Seq法のための培養条件を決定することができた。さらに、HYGO株近傍に存在する非HYGO株がHYGO表現型を示すなど、機構解明にも繋がる新たな興味深い現象も見出すことができた。また、adhX高発現突然変異機構の解明や、HCH分解細菌コミュニティに関する研究、および得られる知見の応用への展開においても、それらの分子機構の解明に繋がる重要な知見を得られたことから、おおむね順調に研究が進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は、以下の研究を前年度から継続し、各現象の機構解明と研究の総括を目指す。 (1)HYGO表現型に関する研究:1-1. HYGO表現型の機構解明 (1-1-1) 標識CO2を用いたHYGO生育時の炭酸固定経路および主要代謝経路の解明、(1-1-2) qTn-Seq法によるHYGO表現型に関与する遺伝子の網羅的同定、(1-1-3) RNA-Seq法によるHYGO表現型を示す際に発現変動する遺伝子の網羅的同定、(1-1-4) ADH活性とHYGO表現型との関係性の解明。(1-1-5) 結果を総合し、HYGOの全貌を明らかにする。1-2.adhX高発現突然変異機構の解明 (1-2-1) adhX高発現突然変異株のゲノムリシーケンシングにより同定されたadhXの高発現突然変異に関与すると推定される因子の解析、(1-2-2) adhXの発現制御に関わる推定二成分制御因子の解析。 (2)HCH分解細菌コミュニ ティに関する研究:2-1. HCH含有固体培地上での長期持続的巨大コロニーの解析 (2-1-1) HCH含有無機固体培地上での巨大コロニー形成に直接関わると推定される候補細菌株の解析、(2-1-2) 固体培地上でのコロニー形成過程の可視化と構成細菌種の空間的配置の解明、(2-1-3) 非分解細菌株の分解細菌株コロニーへの接近現象の機構解明。 (3)得られる知見の応用への展開:土壌マイクロコズムを用いて、(3-1) HCH分解細菌株の土壌生残性とadhXとの関係性の明示、(3-2) 土壌での生残性およびHCH分解活性に対する非分解細菌株との共培養による効果の検証。
|