研究課題/領域番号 |
19H02869
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
新谷 政己 静岡大学, 工学部, 准教授 (20572647)
|
研究分担者 |
野尻 秀昭 東京大学, 生物生産工学研究センター, 教授 (90272468)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | プラスミド / 接合伝達 / 遺伝子の水平伝播 / 宿主域 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,中間供与菌や受容菌の種類を変えたプラスミドキャプチャリングを実施し,種々の環境試料から取得した接合伝達性プラスミドについて,全塩基配列を決定した.その結果,50本を超えるユニークな配列をもつプラスミドの配列を得た.各プラスミドの塩基配列に基づく分類を行ったところ,種々の遺伝子(群)の伝播に寄与することが既に良く知られた広宿主域IncP群プラスミドの他に,これまで見過ごされてきた広宿主域のPromA群プラスミドを見出した.また,得られたプラスミドについて性状分析を行ったところ,IncP群プラスミドには,既知のものとは性質が異なり,宿主域が腸内細菌科のみに限られる新規IncP群プラスミドが含まれることが判明した.こうした「狭宿主域型」のIncP群プラスミドの環境中における分布は,「広宿主域型」のIncP群プラスミドに比べ,河川底泥や下水処理場の活性汚泥等に限定されることが示唆された.一方,PromA群の一部のプラスミドについては,その複製・維持機構が温度感受性を示すことが示唆された.さらに,得られた新規IncP群プラスミドや,PromA群プラスミドについては,複製に必要な最小DNA領域のみを含むミニプラスミドの作出に成功した.現在,各プラスミドどうしの複製機構の類似性について比較している.また,各プラスミドの宿主域を比較するために,プラスミド上に接合完了体でのみ発現する緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を挿入し,培養可能な細菌の基準株(10株程度)に対して接合実験を行った.また,並行して環境試料から抽出した微生物画分に含まれる菌株を同定し,これらの細菌群をモデル受容菌群として,接合実験を行った.その結果,同じIncP群プラスミドやPromA群プラスミドであっても,それぞれの宿主域が異なることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り,昨年度から,種々の環境試料から性状の異なる接合伝達性プラスミドを得ることに成功した.特に,広宿主域型・狭宿主域型の2種類のIncP群プラスミドを得たこと,また,それぞれのプラスミドの分布に違いがあること,後者の宿主域が腸内細菌科に限定した宿主域をもつことが判明した.一方,PromA群プラスミドについても,サブグループごとに宿主域が異なることが示唆された.さらに,PromA群プラスミドには,その複製・維持機構に温度感受性を示すものが含まれており,環境中における動態が異なることも示唆された.現在までに,温度によって宿主域が異なるという予備データも得ている.以上のことは,環境中を伝播するプラスミドが,その環境の違い(土壌や水,温度,菌叢など)に合わせて,進化・適応している可能性が示された.これらの成果は,プラスミドを介して,細菌がどのように進化・多様化しているのか,その一端を解明する上で重要な手がかりを与える新知見であり,本研究が計画通りに進んでいることを示唆するものであった.
|
今後の研究の推進方策 |
①引き続き,これまでに全塩基配列を決定したプラスミドの環境中における分布について調べる. ②これまでに得られた新規プラスミドや,作製したミニプラスミドを用いて,複製・維持・接合伝達の性状について比較し,どのような環境で安定に複製・維持されるのか,接合伝達しやすいのか明らかにする.特に,複製・維持機構に温度感受性が認められたPromA群プラスミドについては,その分子機構の解明も試みる. ③得られたプラスミド上に接合完了体でのみ発現する緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を挿入し,接合伝達頻度を算出するとともに,その宿主域を比較する.特に,モデル受容菌群からの接合完了体の収集は,研究分担者の野尻と共同で,フローサイトメーターとセルソーターを用いて行う.また,プラスミドキャプチャリングに用いた環境試料の菌叢解析を行い,生息する微生物の種類や,温度などの環境因子との相関関係について検証する. 昨年度までに得られた成果について論文にまとめて発表するとともに,①~③の成果をまとめ,遺伝子の伝播するプラスミドがどのように細菌の進化・多様化を担っているのか,その実態を明らかにする.
|