歯周病は世界で最も感染者の多い疾患であり、心筋梗塞や動脈硬化のような生活習慣病の危険因子でもある。しかし、歯周病に関与する慢性歯周炎原因菌Porphyromonas gingivalis(Pg)を標的とする特異的抗菌剤は無い。一方、Stenotrophomonas maltophilia(Sm)は、日和見感染菌として知られ各種抗生物質に耐性を示す。従って、多剤耐性Smに有効な新規抗菌剤が必要である。Pg及びSmのいずれも糖非発酵性細菌であるため、それらのペプチド代謝経路は抗菌剤の標的となる。本研究は、Pg及びSmに対する抗菌活性に優れた「阻害剤配合剤」を開発するため、ヒトに存在しないタイプのペプチダーゼ類の立体構造に基づく阻害剤開発を展開し、酵素活性部位に結合する阻害剤構造(フラグメント)の最適化とそれらフラグメントの「伸長」や「融合」による酵素活性阻害能及び抗菌活性向上を目指すものである。 2022年度は、先行研究において見出したPg由来dipeptidyl peptidase 11(PgDPP11)に関し選択的阻害能を有する非ペプチド性化合物(SH-5)の結合様式に基づいたファーマコフォアベース化合物スクリーニングにより見出した新規阻害剤Sに関し、PgDPP11との複合体の結晶化に取り組んだ。S存在下でPgDPP11の結晶は得られるものの、得られた結晶を用いた回折実験の結果、PgDPP11の活性部位にSの電子密度を確認するには至っていない。Stenotrophomonas maltophilia由来dipeptidyl peptidase 7(SmDPP7)に関しては、ペプチド性阻害剤との複合体の結晶化に取り組んだ。
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