研究課題/領域番号 |
19H02879
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
野田 尚宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (70415727)
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研究分担者 |
常田 聡 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30281645)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Nuclease / TAシステム |
研究実績の概要 |
本研究はトキシン-アンチトキシンシステムの一つであるMazEFに着目している。トキシンタンパク質であるMazFは細胞内で恒常的に発現している1本鎖RNAを配列特異的に切断する酵素であるが、通常の生育環境ではアンチトキシンタンパク質であるMazEと結合し、不活化されている。ある種のストレスに細胞が曝されるとトキシンに比べ不安定なMazEが優先的に分解され、遊離したMazFがRNAを切断し、細胞を休眠状態に追い込んだり死に至らしめたりする。本研究では、病原性微生物のMazFとMazEを取得し、それらの結合を撹乱することができる小分子化合物を蛍光スクリーニングアッセイにより探索することを目的としている。また、MazFのRNA切断活性を利用した微生物制御手法についても広く検討する。 当該年度においては選定したモデル病原性微生物のMazFおよびMazEの取得を行い、目的とするMazFと同程度の分子量の候補タンパク質を得ることができた。この候補タンパク質についてRNAを特異的な認識配列で切断しているかどうかについて、複数種類の配列既知の人工長鎖RNAに対する切断活性試験や次世代シークエンサーを用いた認識配列の同定試験を行った。その結果、配列特異的に1本鎖RNAを切断するMazFであることが明らかとなった。さらにこのMazFに対するアンチトキシンであるMazEの取得も進めている。また、外来のMazFを病原性細菌に細胞外から導入して殺菌する手段についても検討した。 今後の研究推進方策としては、蛍光核酸プローブを用いて、次世代シークエンサーで得られた認識配列について、その結果の妥当性を評価する。さらにMazEのアンチトキシン活性を評価するとともに、化合物ライブラリーのスクリーニングシステムの構築について準備を進める。さらに外来のMazFを利用した殺菌手段についても引き続き検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度においてはモデル病原性微生物のMazFおよびMazEの取得を試みた。モデル病原性微生物のトキシンタンパク質MazFとそのアンチトキシンタンパク質MazEについて配列情報をデータベースから取得し、アミノ酸配列情報等を確認・精査した。取得した配列情報に基づきタンパク質発現用のプラスミドの構築と宿主内での発現を行った。発現誘導の条件などを繰り返し精査することにより、目的とする分子量に近いタンパク質を取得することができた。さらに、取得したタンパク質のRNA切断活性を評価するために、特定の塩基配列をコードせず、また極端な偏りの配列を持たない人工的な配列から構成されるRNA鎖を複数種類用いた。具体的にはこれらのRNAを取得したタンパク質と一定時間反応させ、その際のRNAの切断様式を電気泳動により評価した。その結果、ランダムに切断したような切断パターンではなく、何らかの特定の認識配列箇所で切断したと考えられる切断パターンが得られた。これらの結果から取得したタンパク質がMazFであることが確信された。さらに、切断されたRNAの切断箇所にアダプター配列を付加した後に、次世代シークエンサーを用いて網羅的なRNA配列解析を行い、切断配列と思われる候補配列を複数見出すことに成功した。さらに、MazEの取得についても検討を進めた。一方、MazEFの結合を攪乱することに加え、細菌の必須遺伝子を切断する強力なMazFが得られた場合、これを他の病原性細菌に細胞外から導入し殺菌する、すなわち外来のMazFを利用した殺菌手段が考えられる。外来のMazFの病原性細菌への導入手法を検討した結果、MazF遺伝子を導入したファージを病原性細菌に感染させ、細胞内でMazFを発現させることを着想した。今年度は、ファージの遺伝子組換え方法について文献調査を行い、MazF搭載型ファージの作製プロトコルを確立した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、蛍光核酸プローブを用いた手法で認識配列のより精緻な評価を行う。蛍光核酸プローブはRNA配列が切断されれば発蛍光する仕組みであるため、RNA部分の配列を次世代シークエンサーで得た認識配列として、次世代シークエンサーで得られた結果の妥当性を評価する。複数の核酸プローブを準備して、これまでに得られた候補認識配列について一つ一つその妥当性を評価するとともに、認識配列に対して少しずつ塩基を置換した配列についてもその切断活性を評価し、認識配列を特定する。これまでのMazFの認識配列同定に関する研究成果を参考にすると、認識配列が一つであることの方が希であり、複数の認識配列を切断するものとして、認識配列決定に関する検討を進める。また、MazFに対するアンチトキシンであるMazEの取得も行い、MazFのRNA切断活性の抑制効果を評価する。MazEの抑制効果の評価にも蛍光核酸プローブを用いたアッセイシステムを用いる。 MazFとMazEが取得でき、さらに認識配列の同定が終わった後に、蛍光核酸プローブを用いたMazEF複合体の結合を攪乱する化合物の探索を行う。最終的な目的とする病原性微生物のMazEF複合体の結合を攪乱する化合物の探索を効率的に行うことができるように、すでに認識配列が明らかとなっているMazFとそのアンチトキシンであるMazEを組み合わせて、化合物ライブラリーのスクリーニングシステムの構築について準備を進める。一方、外来のMazFを用いた病原性細菌の殺菌技術の開発においては、遺伝子組換え技術により、まず、目的のMazFをコードするファージミドベクターを構築する。つぎに、本ファージミドベクターを大腸菌に導入後、ヘルパーファージを感染させることで、病原性細菌に感染能を有するMazF搭載型ファージを作製する予定である。
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