2021年度は、次の2つのアプローチによって、分泌タンパク質にジスルフィド結合が導入される過程の詳細や関連の病気の発症の仕組みの解析を進めた。 1. 分泌タンパク質の立体構造形成における各PDIファミリー酵素の役割を明らかにする目的で、LDLRに結合することを申請者らが見出しているPDIファミリー酵素のうち4種類について、各酵素のノックダウンが、LDLRのR1ドメインの折り畳みに及ぼす影響を調べた。その結果、いずれの酵素をノックダウンした場合にもLDLRの生合成過程に影響が生じることを見出した。更に、調べた4種類の酵素は、LDLRの生合成過程への働きの違いによって、2つのグループに分けることができることが判明した。これはPDIファミリーの役割分担を考える上で極めて興味深い知見である。しかし、各酵素の具体的な働きを解明するためには、チェイス実験を含む更に詳細な解析が必要であることが判明した。各PDIファミリー酵素の具体的な役割の違いは、今後の重要な課題である。 2. LDLRのN末端に存在するR1ドメインの折り畳みは、その遥か下流に存在するβ-プロペラの中央部分をリボソームが翻訳中に開始する。R1の折り畳みに必要なβプロペラ上の残基を特定することはそのメカニズムを解明する上で極めて重要である。本研究では、βプロペラのサブドメインの1と2上に必要領域が存在するとの推測のもと、この領域内の14のアミノ酸残基(その中には変異により高コレステロール血症を発症する5つの残基を含む)についてAla置換体を作成し、R1ドメインの折り畳みを解析した。その結果、R1の折り畳みに必要な残基は当初の予想とは異なり、βプロペラ上の別の位置に存在する可能性が示唆された。
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