研究課題/領域番号 |
19H02883
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神戸 大朋 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90303875)
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研究分担者 |
片山 高嶺 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (70346104)
高橋 正和 福井県立大学, 生物資源学部, 准教授 (80315837)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 亜鉛欠乏 / 炎症性腸疾患 / アルカリフォスファターゼ / 亜鉛吸収促進因子 |
研究実績の概要 |
亜鉛欠乏がIBDの発症や憎悪に関わる分子メカニズムとして、IAPの活性低下が原因であることを細胞レベルで証明することを試みた。IAPがIBDに関わると考えられる最大の理由としては、IAPが腸内のグラム陰性菌由来のLPSのリン酸基の加水分解できる活性を有しており、IAPの活性低下によってリン酸遊離活性が低下し、結果、その毒性が低減化されないためと考えられている。このモデルは、IAP以外の酵素に適応できるため、リン酸加水分解活性を有する細胞外の酵素におけるLPSのリン酸遊離活性を検証した。10種類以上の酵素をスクリーニングした結果、IAPの他にENPP3などいくつかの酵素に、LPSのリン酸基遊離活性を有することを見出した。さらに、これらの酵素のリン酸基遊離活性が亜鉛依存的に低下することを確認した。本結果より、亜鉛欠乏でのIBSの増悪化には、IAP以外にもTNAPとENPP3が関与する可能性が考えられた。これら酵素のLPSのリン酸遊離活性の効率低下が、どの程度LPSの毒性を低下させるのかについて解析するため、実際にLPSを加水分解させ、THP-1細胞培養液に添加してサイトカイン産生を評価しているが、現時点では有意な差を見いだせておらず、引き続き検討を行っている。また、本研究を実施している最中にIAPのLPSのリン酸基遊離活性がアーチファクトであるとの論文が報告されたため、その検証を実施した。IAPによるLPSリン酸基遊離活性はLPSのミセルの状況により変化する可能性が見出され、現在、その詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を実施中に、IAPの持つLPSのリン酸基遊離活性がアーチファクトであるとの論文が報告された。本課題の仮説の根幹に関わる内容であったために、その検証を優先した結果、予定していた解析の一部を実施することができなかった。そのため、若干の遅れが生じている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)「亜鉛欠乏」が「IAPの活性消失」を引き起こすことによってIBDが発症する分子機構の解明 ① 亜鉛欠乏がIAPの活性消失を引き起こすことによって、炎症につながると予想されるが、その詳細な分子メカニズムを明らかにする。昨年度はLPSとの関連に焦点を当てた解析を実施していたが、本年度はその対象をポリリン酸や細菌由来の細胞外ATPまでに対象を広げ、解析を実施する。また、解析系にアピカル嫌気培養装置を使用し、より腸管内の環境に近い状態でも評価を行う。 ② 実際に炎症応答を惹起させた培養細胞において、亜鉛十分の状態と亜鉛欠乏の状態にある細胞による産生されたIAPを添加し、IL-6、IL-8およびTNFαの各サイトカインレベルがどのように変化するか解析する。 ③ デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)腸炎誘導マウスを亜鉛欠乏食で飼育する。通常食での飼育に比べ、腸管のIAP 活性が低下すること、それに伴い、消化管組織中のサイトカインレベルが上昇し、消化管粘膜組織の炎症レベルが悪化することを示す。さらに、過剰量亜鉛を再投与することによって、炎症が改善されることを示す。 (2)IBDの予防と治療を目指し、亜鉛を充足させる食品の探索 亜鉛を充足させることが、IBDの予防・治療に有用であることを証明するため、亜鉛吸収促進効果のある食品を探索する。今年度の解析には、消化管からの亜鉛取り込みに機能するZIP4の発現を増強させる因子の探索のみならず、取り込んだ亜鉛を血中に放出する機能を有するZNT1の発現増強因子に関しても探索を進める。また、これまでに亜鉛吸収促進効果のある成分として同定したソヤサポニンBb、さらには①の解析で同定した新規成分の効果について、腸炎誘導マウスを用いて検証する。
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