研究課題/領域番号 |
19H02887
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松井 健二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90199729)
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研究分担者 |
高林 純示 京都大学, 生態学研究センター, 名誉教授 (10197197)
渡辺 文太 京都大学, 化学研究所, 助教 (10544637)
岡田 憲典 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20312241)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | みどりの香り / 誘導防衛 / トウモロコシ / ヘキセノール |
研究実績の概要 |
前年度までの検討で、トウモロコシ実生に(Z)-3-hexen-1-yl acetate (Z3HAC) 蒸気を暴露するとシスタチン遺伝子が顕著に誘導されることを確認した。そこで、この構造にジアジリン基と末端アセチレン基を導入し、フォトアフィニティケミカルプローブのデザインに着手した。まず、Z3HACの酸部分を伸長し、5-ヘキシン酸に変えたところ、Z3HACと同程度のシスタチン遺伝子発現誘導活性を認めた。一方でZ3HACのエステル部位をエーテルに変更したところ、誘導活性が全く認められなかった。このことからトウモロコシ実生の香り応答には酸部分は不要で、アルコール部分が鍵構造であることが推定された。このことは残念なことに香り構造中にジアジリン基を導入する余裕がないことを意味し、ケミカルプローブを用いた香り相互作用因子の探索は断念せざるを得なかった。そこで、鍵構造を更に絞り込むためZ3HAC類縁体を網羅的に準備し、構造活性相関解析を進めることとした。 一方、研究分担者の高林らがトウモロコシ実生に刈り取った雑草の香りを暴露すると圃場での病虫害抵抗性が高まることを明らかにした。そこで同様の条件で処理したサンプルについてRT-qPCRを実施したところ、シスタチン遺伝子の誘導は確認されなかった。つまり、圃場での比較的長期の抵抗性誘導にはZ3HACで短期間で誘導される抵抗性とは異なる機構が関与していることが明らかとなった。 またカルシウム流入を非破壊的に観測できるGCaMPシロイヌナズナで香り曝露を実施したが、このアッセイ系でカルシウム流入を確認するには生理生態学的濃度からかけ離れた極めて高濃度の香り化合物が必須であることが明らかとなった。これは植物の「感度」の違いとも考え、GCaMPトマトを作成し、検証することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケミカルプローブのデザインを断念しなければならかなったことは当初の予定を完遂するためには大きな痛手だが、同時にトウモロコシの香り受容に必須な鍵構造をかなり精細に絞り込むことができ、新たな知見の創生に至ると考えている。同時に研究分担者等によってトウモロコシ実生に香り処理を一度施すと、その後、圃場に移植して結実までその効果が持続することが明らかになった。この際には、香り処理だけでは防衛遺伝子の誘導が認められず、香り処理によってトウモロコシがいわゆるプライミング状態に入っていることが考えられる。植物の香り受容にはこうしたプライミングが大きく関わっていると考えられ、新しい研究方向性を策定することが可能となった。 GCaMPシロイヌナズナを用いた、香り受容におけるカルシウム流入のモニタリングが可能であることが確定した。しかしながら、顕著なカルシウム流入シグナルを検出するには自然環境ではありえないほどの高濃度が必要であることも明らかとなった。このことは、シロイヌナズナの香り受容にカルシウム流入が関与していない、あるいは関与しているがGCaMPで検出できない程度に弱い応答である可能性が考えられた。一方、私達はカルシウム蛍光試薬を用いてトマトにみどりの香りを処理するとカルシウム流入が促進される可能性を示してきた。そこで、香り応答におけるカルシウム流入の寄与度は植物種によって異なる可能性を想定し、トマトにGCaMP遺伝子を導入する形質転換体の作成を始めた。既に組換え当代を得て機械傷でカルシウム流入を検出できることを確認している。 このように、当初の実験計画からはかなりの変更を余儀なくされたが、それらは研究結果に基づく妥当な変更であり、得られた新たな知見に基づく積極的な変更であるためほぼ順調な進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは(Z)-3-hexen-1-yl acetate (Z3HAC) をリード化合物とした構造活性相関解析が必要である。幸い、Z3HACとその類縁体の多くは市販されているものが多く、収集に困難はない。また、トウモロコシ実生への雑草香気曝露で観察された長期応答をプライミングと想定し、中心的な研究対象とし、まずは研究結果の再現性を確認し、どのような状況で抵抗性が発揮されるのかを明らかにする。 一方、GCaMPトマトについては組換え後代のスクリーニングでホモ個体を得、生理生態学的にありえる濃度の香り化合物で処理し、カルシウム流入の有無を確認する。また、トマトでもZ3HACをリード化合物として構造活性相関解析を進め、植物種による応答性の違いを検証する。
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