研究課題/領域番号 |
19H02890
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
伊藤 昭博 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (40391859)
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研究分担者 |
堂前 直 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, ユニットリーダー (00321787)
どど 孝介 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (20415243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リジンアシル化 / TEAD / Hippo経路 |
研究実績の概要 |
リジン残基上で起こる長鎖アシル化修飾の機能を明らかにすることを目的に、令和2年度は以下の3点について研究を推進した。 1. リジン長鎖アシル化修飾によるTEADの活性制御。前年度までに、TEADのリジン長鎖アシル化修飾は転写共役因子YAPとの結合に重要であることを明らかにした。そこで今年度は、TEADの転写活性に与える影響を調べる目的で、YAP依存的な転写活性を測定可能なレポーターアッセ系を構築した。本アッセイ系を用いて、アシル化出来ないKR変異は、TEAD の転写活性を有意に低下することを示し、リジン長鎖アシル化修飾はTEADの転写活性に重要であることを明らかにした。 2. 長鎖アシル化修飾の制御機構。前年度までに、TEADのリジン長鎖アシル化修飾は、システインからのアシル基の分子内転移で起こることを、CS変異体を用いて示してきた。今年度は、アルキン標識パルミトイルCoAを用いて、外来由来のアシル基がシステインを介してリジン残基に分子内転移すること、システインパルミトイル化酵素阻害剤処理により、細胞内のTEADのリジン長鎖アシル化が阻害されることを示し、リジンのアシル化修飾は、システインからのアシル基の分子内転移で起こることを示す新たな知見を得た。 3. 金属ビーズを用いたリジン長鎖アシル化タンパク質の網羅的な探索法の確立。アルキン標識長鎖アシル化モデルペプチドを用いて、金属ビーズによるリジン長鎖アシル化修飾依存的なペプチド濃縮に成功し、本法を用いた網羅的な探索が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、リジン残基上で起こる長鎖アシル化修飾の機能を明らかにすることを目的としている。本年度は前年度に引き続き、TEADのリジン長鎖アシル化修飾の機能とその制御機構の解明および、リジン長鎖アシル化タンパク質の網羅的な探索法の確立を目的に研究を行なった。 TEADが転写因子として機能するためには、転写共役因子YAPとの結合が必須であることが知られているが、リジン長鎖アシル化修飾はYAPとの相互作用に寄与することにより、TEADの転写活性に重要な翻訳後修飾であることを明らかにした。さらに、リジン長鎖アシル化修飾の制御機構としては、CS変異体、アルキン標識パルミトイルCoAを用いたin vitroアッセイ系および、システインパルミトイル化酵素阻害剤を用いた解析により、リジン残基の長鎖アシル化修飾は、システインに修飾されたアシル基からの分子内転移で生じることを明らかにした。 リジン長鎖アシル化タンパク質の網羅的な探索法の確立については、作製したPan-リジンミリストイル化抗体が、リジンミリストイル化修飾依存的にペプチドの免疫沈降可能であることが分かったが、プロテオーム解析には濃縮率が不十分な可能性が生じた。そこで、逆相カラムによるさらなる濃縮が可能か検討中である。一方、金属ベーズを用いた濃縮法については、アルキン標識したTEAD由来のリジンミリストイル化ペプチドをモデルペプチドとして用いて、高効率に濃縮可能な条件を確立した。以上の結果から、当初予定していた目標については概ね達成することが出来たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
リジン残基上で起こる長鎖アシル化修飾の機能を明らかにすることを目的に、リジン長鎖脂質修飾によるTEADの活性制御機構の解明と、リジン長鎖アシル化タンパク質の網羅的な探索を目指し、引き続き以下の研究を推進する。 1. リジン長鎖アシル化修飾によるTEADの活性制御。TEADのリジン長鎖アシル化修飾は、TEADの転写活性に重要であることが分かった。そこで今後は、リジン長鎖アシル化修飾の生理的な重要性について検討する。具体的には、Hippo経路を活性化させたときのTEADのリジン長鎖アシル化修飾レベルの変動を解析する。加えて、KR変異体を用いて、Hippo経路に応答したTEADの転写活性におけるリジン長鎖アシル化修飾の重要性を明らかにする。また、TEADの機能制御におけるシステインとリジンの長鎖アシル化修飾の違いについても検討する。In vitroで脱長鎖アシル化活性を有する既存のリジン脱アセチル化酵素 (KDAC) を見出したが、それらKDACsは細胞内では機能していない可能性が示唆され、TEADのリジンの長鎖アシル化修飾のタンオーバーは遅い可能性が示唆された。一方、システインのアシル化修飾は脱アシル化されることが報告されているので、安定性の違いに注目して今後検討する。 2. リジン長鎖アシル化修飾タンパク質の網羅的な同定。Pan-リジンミリストイル化抗体を用いたアフィニティー精製法について、モデルペプチド等を用いて濃縮率の向上を目指す。金属ベーズを用いた濃縮法については、モデルペプチド等を用いた条件は確立できたので、本法を用いて、細胞に発現させたTEADをリジン長鎖アシル化修飾依存的に精製可能か検討することにより、最終的な条件を確立する。条件が確立しだい、リジン長鎖脂質修飾タンパク質の網羅的な探索を行う。
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