研究課題/領域番号 |
19H02891
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
及川 英秋 北海道大学, 理学研究院, 特任教授 (00185175)
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研究分担者 |
南 篤志 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40507191)
尾崎 太郎 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40709060)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 担子菌 / 異種発現 / ゲノム編集 / 天然物 / ゲノムマイニング |
研究実績の概要 |
担子菌由来天然物の生合成遺伝子を利用した合成法を確立するため、麹菌にセスキテルペン環化酵素(STS)遺伝子をゲノムDNAとして導入する方法を検討した。30種のSTS遺伝子のうち、約半数が正常にスプライシングされ、環化体が生成。残る半数も単純なイントロンスキップが1-2箇所/遺伝子であったため、PCR法で除去したものを再導入するとほとんど(29/30種)で、生産が確認できた。次いで当研究室の生合成研究において高収量を与えた形質転換体のゲノム解析を行い、標的とする遺伝子座を同定した。当該箇所に上記STS遺伝子をゲノム編集を利用したところ、>90%の高確率で導入され、ほぼ100%が20-50mg/Lと好収量で環化体を与えた。 こうした結果を踏まえ、神経成長因子の合成促進作用を持つ担子菌Hericium erinaceusが生産するジテルペン、エリナシン類の生合成経路の解明および酵素を用いた物質生産を上記方法の適用を検討した。当初3 種のシトクロム P450の2種で発現に問題が生じたが、 生産菌のP450 還元酵素 およびクラスター内の酸化還元酵素遺伝子を共発現することで解決した。糖転移酵素は、その活性をin vitro実験で確認できたものの、in vivoではほとんど生成しなかった。その原因を糖転移酵素の基質供給系に問題があると考え、生産菌由来の2種の酵素遺伝子を導入することで180mg/Lと高生産株の調製に成功した。 これまで担子菌自身の遺伝子操作が困難で、優れた異種発現系がなく、生合成遺伝子クラスター再構築による物質生産は困難であったが、以上の研究成果をもとに、実現可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当研究室の生合成研究において高収量を与えた形質転換体のゲノム解析を行い、標的とする遺伝子座を同定し、当該箇所に選別した。これは、上記の形質転換体における外来遺伝子の導入部位が、転写活性の高い遺伝子座だと期待されるためである。実際このサイトに環化酵素遺伝子を導入したところ、約50mg/Lのテルペンの生産を確認できた。そこでCas9プラスミドのリサイクリングシステムを組合わせたゲノム編集法を用いて、アルツハイマー予防薬候補物質erinacineの生産に成功した。その収量は180mg/Lと良好であった。
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今後の研究の推進方策 |
担子菌由来天然物の生合成酵素の中で、最も頻度高く使用されるチトクロームP450モノオキシゲナーゼがある。今回使用した子嚢菌ホストで、それが正しく機能するかや、他の遺伝子に比べイントロンが多く正くスプライシングされるかなど、確認すべき項目が多い。そこでその活性発現に重要な補助酵素について詳細な検討を行う。合わせて、昨年開発した発現の汎用性を検証する必要がある。
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