研究課題
亜鉛は、亜鉛酵素や遺伝子のZinc-finger構造などの構成成分として多様な生理機能を持つ必須元素である。亜鉛含有タンパク質は、今や3000種類以上も同定されている。しかし、味覚機能や摂食調節における亜鉛の役割の解明は、研究途上にある。味覚における亜鉛の役割は、唾液分泌と味細胞の機能の面から亜鉛酵素である炭酸脱水酵素(Carbonic anhydrase (CA))活性を介している部分が大きいと推定されている。これまで、ラットの亜鉛欠乏時には唾液中のCA VIの分泌濃度が低いこと、味受容膜における総CA活性が低いこと、等を証明してきた。しかし、正常な味覚機能と食欲調節を担う唾液中の亜鉛結合タンパク質(CAVIその他)の解析はまだ不十分なため、当研究課題の申請となった。3年間の研究の集大成として、味覚障害患者と健常者を用いて研究を行った結果、味覚障害患者では、唾液中の総CA活性および唾液中亜鉛濃度・タンパク質濃度が有意に低下していた。イタリアで行われた先行研究と異なって、苦味受容体TAS2R38の遺伝子多型と唾液遊離亜鉛濃度との間には関連性は認められなかった。また、プロテオーム解析の結果から、健常者では唾液中タンパク質のうち約10%がCAであり、CAのうち99.9%以上がCAVIであることが証明された。従って、味覚障害患者では唾液中タンパク質濃度の低下が起こり、それに伴って唾液中のCAVIの濃度も低下し、それによって唾液中総CA活性が低下することで味覚感度が低下することが示唆された。CAVI の遺伝子多型の解析の結果からは、アミノ酸配列の1箇所の違いによるタンパク質立体構造の変化が、CAVIの活性部位に構造的な変化を起こし、それにより亜鉛イオンとの結合が不安定になるなどCAVI活性の変化に繋がり、それが味覚障害の発症機序に関与する可能性が初めて示された。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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亜鉛栄養治療
巻: 12 ページ: 33-49