研究課題/領域番号 |
19H02904
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西岡 昭博 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (50343075)
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研究分担者 |
香田 智則 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (60261715)
藤田 直子 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (90315599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子鎖 / レオロジー / 混練履歴 / シミュレーション / 澱粉 |
研究実績の概要 |
小テーマ(1):『澱粉の高分子鎖形状が生地のレオロジー特性に及ぼす影響』:混練履歴のない状況下で澱粉の高分子鎖形状が生地のレオロジー特性に与える影響を明らかにするため高分子鎖形状が同定された米の物性比較をした。糊化時の懸濁液は、アミロペクチンが多い場合やアミロペクチンの二重螺旋が長い場合に高粘度になった。糊化後の生地には高分子鎖が分散する。この場合、アミロースが多い系では高弾性率となった。一連の検討から、米粉生地の物性はアミロース含量とアミペクチン構造に相関することが示された。 小テーマ(2):『エクストリューダーによる混練履歴が生地のレオロジー特性に及ぼす影響』 :エクストリューダーによる混練時の混練速度とスクリューデザインを変更し、生地の粘度に与える影響を検討した。その結果、スクリューデザインによらず混練速度の増加に伴い生地のせん断粘度が低下した。これより混練履歴は生地のせん断粘度に影響を与えることが明確となった。さらに詳細に混練履歴の影響を明確にするためには、混練時に生地に印加されるひずみ量を定量化し議論することが重要である。ここではレオメータを用いて混練履歴を与えることを提案した。本手法により高度にひずみやひずみ速度を制御した条件下で生地に混練履歴を与えられることを確認した。今後はより詳細に混練履歴の影響を明らかにするため、レオメータを用いた混練履歴の定量化を進める必要がある。 小テーマ(3):『分子動力学シミュレーションによる高分子鎖形状および混練履歴が生地の物性や加工性に与える影響の解析』:今年度は無せん断下で澱粉分子の分子動力学シミュレーションを行った。澱粉分子鎖として重合度15の二重螺旋モデルを作成し、温度を20℃, 60℃で計算した。原子間距離のゆらぎを解析した。次年度に実施予定のせん断下での澱粉分子鎖の糊化挙動の検討につながる基礎データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、(1)澱粉の高分子鎖形状が生地のレオロジー特性に及ぼす影響、(2)エクストリューダーによる混練履歴が生地のレオロジー特性に及ぼす影響についての検討を進めた。また(3)分子動力学シミュレーションによる高分子鎖形状および混練履歴が生地の物性や加工性に与える影響の解析を推進した。 (1)については、当初の計画通り混練履歴のない条件下での物性測定を行った。研究分担者の藤田より澱粉の高分子鎖形状が同定された数種類の米の提供を受け、静置下での米粉生地の物性とアミロース含量及びアミロペクチン構造との相関を得ることができた。順調に実験が進み、上記(2)で示した混練履歴が物性に与える影響に関わる基礎データを得ることができた。 また(2)については初年度に決定した実験手法を利用し、エクストリューダーを用いた生地への混練履歴の影響を検討することができた。具体的には混練履歴が生地のせん断粘度に与える影響を明確にした。さらに、初年度に発案したレオメータを用いて生地に混練履歴を印加するというアイデアを導入するための検討も行った。これによりレオメータを用いることで高度に制御された条件下で混練履歴の検討が可能であることを示した。これらは次年度に予定する本格的な混練履歴の影響に関する詳細な検討に繋げる上で基礎的かつ重要な結果といえる。(3)については、計画通り澱粉分子鎖の二重螺旋モデルを作成することができた。分子動力学シミュレーションを用いて無せん断下における原子間距離の揺らぎを解析し、アミロペクチンの構造変化を定量化するための基礎データを得ることができた。 以上、今年度に得られた一連の検討は当初計画及び前年度の推進方策に従い遂行できているものである。実験結果も順調に得られていることから、進捗状況を「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は(a)澱粉の高分子鎖形状と物性との相関、(b)混練履歴と物性との相関を明らかにし、高分子鎖構造の違いを考慮した澱粉食品の加工技術を開発することが最終目標である。これを達成するために、今年度は、(1)混練履歴のない条件下において高分子鎖形状が生地物性に与える影響、(2)エクストリューダーによる混練履歴が生地の物性に与える影響を明らかにした。さらに、レオメータを用いることで高度にひずみやひずみ速度を制御した条件下で生地に混練履歴を与えられることを確認した。さらには(3)分子動力学シミュレーションにより、混練履歴のない静置下における糊化時の分子鎖の挙動を捉えた。 次年度は、引き続き高分子鎖形状と生地物性の相関を明らかにするとともに、さらに詳細に混練履歴の影響を明らかにするためレオメータを用いた混練履歴の定量化を進めていく。また、澱粉分子鎖にせん断を印加する分子シミュレーションを行い、混練履歴が澱粉分子鎖の構造変化に及ぼす影響を明らかにしていく。これらの一連の結果を踏まえ、得られたデータを総合的に評価し、製パン性との相関を得る。各年度に得られたすべての実験結果をまとめ研究を総括する。
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