令和元年度は抗老化食品成分摂取による老化依存的な味感受性低下の抑制効果について検討を進めた。抗老化食品成分として、α-グリセロホスホコリン(GPC)を用いた。GPCは卵や牛乳、大豆などに含まれるコリン前駆体で、認知や記憶機能の低下の予防をはじめとして様々な抗老化作用が知られている。認知・記憶機能が味感受性に影響することが示唆されていることから、GPCの摂取が加齢による味覚機能の低下を抑制する効果を期待した。 実験にはC57BL/6Jマウス(♂)を用いた。マウスは通常固形食で飼育したYoungおよびOldマウスと、60週齢から0.0136%GPCを含有した固形食で飼育したGPCマウスの3群に分けた。YoungマウスはOldマウスのコントロールとして設定した(8-18週齢)。OldとGPCマウスは105週齢以降に味感受性を評価した。味感受性は48時間二瓶選択試験にて評価した。この際、塩味(NaCl)、苦味(安息香酸デナトニウム)と酸味(クエン酸)を対象とした。味感受性試験終了後に海馬をサンプリングし、神経成長、炎症や長期記憶に関与する遺伝子のmRNA発現を定量PCR法にて測定した。 まず、GPC摂取による抗老化作用を海馬遺伝子発現の観点から評価した。その結果、GPCを長期間摂取したマウスにおいて、長期記憶に関連する遺伝子の加齢による発現量低下が有意に抑制されることを見出し、GPC摂取が海馬遺伝子発現において抗老化作用を示すことが確認された。次いで各味溶液に対する感受性を評価した。Old群でYoung群に比べ、苦味と塩味に対する感受性の変化が観察された。一方でGPC群とOld群の間に差はなく、GPC摂取による味感受性抑制効果は観察されなかった。したがって、加齢による味感受性の変化は認知機能とは別の経路を介して生じると考えられた。
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