研究課題/領域番号 |
19H02916
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
竹中 麻子 明治大学, 農学部, 専任教授 (40231401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質欠乏 / IGF-I / FGF21 / VLDL受容体 |
研究実績の概要 |
1)血中IGF-I濃度低下と筋萎縮が脂肪肝形成に寄与する可能性の検討 ①FGF21を介したIGF-I低下が脂肪肝を引き起こす可能性の検討:成長期のFGF21ノックアウトマウス(KO)と野生型マウス(WT)に対照食あるいは低タンパク質食を与えて10日間飼育した。WTでみられたタンパク質欠乏によるIGF-I血中濃度の低下・成長遅滞・筋重量の低下・肝臓脂肪蓄積がいずれもKOでも同様にみられたことから、タンパク質欠乏時のIGF-I活性の低下及びこれに起因する成長遅滞や筋重量低下はFGF21を介さずに生じることが示された。 ②IGF-I低下時の筋肉タンパク質代謝活性低下(タンパク質合成・分解)の検討:成長期のラットに対照食あるいは低タンパク質食(LP)を与えて10日間飼育した。窒素出納は、LP群で対照群の20%程度に低下し、筋肉重量も低下傾向であった。タンパク質合成を制御する血中IGF-I濃度もLP群で有意に低く、筋タンパク質合成活性もLP群で対照群の75%に低下した。一方、血中コルチコステロン濃度、オートファジーによるタンパク質分解指標は変化しなかった。以上の結果から、タンパク質欠乏時の筋量低下が筋タンパク質の合成低下を介して生じることを示した。
2)VLDL受容体(VLDLR)によるVLDL取り込みが脂肪肝形成に寄与する可能性の検討:ApoE欠損マウスを用いた解析:成長期の対照(C57BL/6)、およびApoE欠損(VLDLRによる肝臓への脂質取り込みが起こらない)オスマウスに対照食あるいは低タンパク質食を10日間給餌した。タンパク質欠乏による肝臓脂肪増加はApoE欠損マウスでも対照マウスと同様に観察された。したがって、タンパク質欠乏による肝臓脂肪増加は、VLDLRによる肝臓へのVLDL取り込み量の増加が原因で生じるのではないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた検討をすべて実施することができた。COVID19による研究機関(明治大学)の活動制限により、一部の内容(ApoE欠損マウスの解析)が2021年度に後ろ倒しでの実施になったが、研究の進捗状況は順調であると考えている。 本研究では、タンパク質欠乏時の肝臓脂肪増加の新規メカニズムとして、「FGF21合成増加と血中IGF-I濃度の低下で生じる筋肉量の減少が脂肪肝形成を引き起こす」可能性を検討している。FGF21ノックアウトマウスでもタンパク質欠乏によるIGF-I低下が生じたことから、タンパク質欠乏による血中FGF21濃度増加とIGF-I濃度低下は独立して生じることが明らかになった。また、FGF21ノックアウトマウス、IGF-I投与マウスでもタンパク質欠乏による肝臓脂肪増加が生じたことから、FGF21増加もIGF-I低下も肝臓脂肪増加の直接の原因とはならないことも明らかになった。一方で、タンパク質欠乏によるIGF-I活性の低下が筋タンパク質合成活性の低下を介して筋肉量の低下を引き起こす可能性が示された。 本研究で検討しているもう一つの肝臓脂肪増加メカニズムとして、「VLDLRによる血中リポタンパク質取り込み増加が肝臓脂肪増加を引き起こす」可能性については、VLDLRノックアウトマウス、ApoE欠損マウスでもタンパク質欠乏による肝臓脂肪増加が生じたことから、VLDLR増加は肝臓脂肪増加の直接の原因とはならないことが示された。 ここまでの研究でFGF21、IGF-I、VLDLRいずれも肝臓脂肪増加に寄与しないという結果が得られたため、新たなメカニズムの検討が必要になった。
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今後の研究の推進方策 |
1)低タンパク質食摂取が肝臓への糖取り込み増加を介して肝臓脂肪を増加させる可能性の検討 本研究では、タンパク質欠乏が筋肉と肝臓との臓器間相互作用を介して肝臓脂肪増加させる可能性を検討している。タンパク質欠乏時にはIGF-Iによる筋肉のタンパク質代謝活性が低下して余剰のエネルギーが生じ、これが肝臓に流入する可能性を想定したが、IGF-I投与によりIGF-I活性を高く維持した状態でも肝臓脂肪増加が生じ、この仮説に関しては否定的な結果が得られた。そこで次に余剰のエネルギーが糖の取り込みの形で筋肉から肝臓に移行する可能性を想定し、タンパク質欠乏時の筋肉への糖取り込み活性を検討する。対照食あるいは低タンパク質食を給餌したマウスにグルコースアナログである2-デオキシグルコースを腹腔内投与して、臓器への糖取り込みを解析する。タンパク質欠乏によって筋肉に取り込まれるグルコース量が低下し、肝臓へのグルコース流入量が相対的に増加する可能性を検討する。 2)VLDLR発現増加機構の解析 肝臓VLDLR発現はFGF21の制御下にあるとの報告があることから、FGF21ノックアウトマウスを用いてタンパク質欠乏によるVLDLR発現増加が変化するかどうかを解析する。 さらに、VLDLR発現に関与することが報告されている転写因子(ATF4、Nrf2、PPARα、PPARβ/δ)の他の標的遺伝子の発現をタンパク質欠乏ラットで解析し、活性化されている転写因子の候補を選抜する。選抜した転写因子を肝臓培養細胞で高発現させ、VLDLR発現が増加することを確認する。また、選抜した転写因子の合成をsiRNAで抑制し、アミノ酸欠乏培地での培養によるVLDLR発現増加に及ぼす影響を解析する。アミノ酸欠乏によるVLDLR発現増加は肝臓特異的であるため、肝臓以外の培養細胞との結果を比較して肝臓特異的発現を行なう転写因子群を同定する。
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