研究課題/領域番号 |
19H02918
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
伊藤 菊一 岩手大学, 農学部, 教授 (50232434)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温度センシング / 細胞呼吸 / 発熱植物 / RNA-seq解析 / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
ザゼンソウ(Symplocarpus renifolius)は早春の寒冷環境で発熱し、外気温の変動にも関わらずその熱産生器官である肉穂花序と呼ばれる花器の温度を23℃程度に維持できる恒温性を有している。本植物の器官特異的な熱産生にはミトコンドリア内膜に局在するシアン耐性呼吸酵素(AOX)の関与が指摘されている。また、その恒温性には負の活性化エネルギーで特徴付けられる化学平衡の移動が重要であることが明らかになっている。一方、本植物の恒温性に関わる温度センシングモデュールは鋭敏な温度感受性を有することが予想されているが、その詳細は不明のままである。本年度の研究においては、発熱組織をターゲットとしたメタボローム解析の情報に基づき、温度変動に対し感受性を有すると予想される代謝経路に着目した研究を行った。具体的には、1)アミノ酸代謝に関わる経路、2)カルシウム代謝に関わる経路、3)糖代謝に関わる経路、4)硫黄代謝に関わる経路を中心に解析を進めた。これらの代謝経路に関わる遺伝子群の中で、AOXよりも高い発現を示す遺伝子が見出されたことから、当該遺伝子産物の機能に着目した解析を発熱組織から精製したミトコンドリアを用いて実施した。その結果、問題とする遺伝子産物は、チトクロームcオキシダーゼを介した呼吸経路を阻害する物質の生成に関わっていることが判明した。この遺伝子産物の機能と温度との関係については、次年度以降の研究課題であると考えている。また、小胞体のカルシウム代謝に関わり、動物において非震え熱産生に貢献することが報告されているTHADA(thyroid adenoma-associated protein)をコードする遺伝子については全長cDNAクローニングに成功し、DDBJに登録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基本的な戦略であるメタボロームとトランスクリプトーム解析を組み合わせた温度センシングモデュールの探索は昨年度から大きく進展し、ターゲットとなる複数の代謝経路を提示できる状況になっている。なお、ザゼンソウとの比較の観点から研究を行っていたArum maculatumに関する研究成果はBiochemical Journalに掲載されると共に、同誌の表紙を飾った。また、本年度においては、関連する遺伝子の同定や、酵素タンパク質の生化学的解析に進むことができ、種々の温度条件における機能解析への足がかりができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の研究の推進に関わる大幅な計画変更の必要性は今のところないと考えているが、新型コロナによるウェット実験の進捗が遅れた場合には、ある程度の修正が必要になるかもしれない。現時点では、大腸菌で合成したタンパク質を用いた生化学的解析を続けようと考えているが、温度センシングに関わる分子機能が単一タンパク質では観察されない可能性もある。その場合は、ザゼンソウの発熱組織由来の当該酵素を精製する必要が生じることも想定している。今後は、以上の懸念点を念頭に研究を進めていきたい。
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備考 |
Biochemical Journalに発表した論文は表紙に採用された。
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