研究課題/領域番号 |
19H02920
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
田代 陽介 静岡大学, 工学部, 講師 (30589528)
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研究分担者 |
中尾 龍馬 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (10370959)
金原 和秀 静岡大学, 工学部, 教授 (30225122)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膜小胞 / 緑膿菌 / カルジオリピン / バイオフィルム / サイトカイン |
研究実績の概要 |
病原細菌が細胞外に放出する「膜小胞」は、病原因子を内包し宿主の上皮細胞に侵入して炎症を引き起こすことから、感染における重要な病原因子運搬体として知られている。宿主細胞とのインターフェースにおいて細菌はバイオフィルムを形成し、バイオフィルム内で膜小胞形成は誘発されることが明らかとなっている。本研究では、緑膿菌バイオフィルムで形成される膜小胞に対する生体応答機構の解明を目的とした。 緑膿菌バイオフィルム内で細菌表層の膜小胞形成部位に蓄積するカルジオリピンの機能を調べるために、カルジオリピン非生産株を用いてその特性解析を行った。カルジオリピン欠損株では、野生株に比べて膜小胞形成が低下しなかったことから、当リン脂質は膜小胞形成に必須ではないことが示された。また、トランスクリプトーム解析では、浮遊状態よりもバイオフィルム状態でカルジオリピン欠損により変動する遺伝子群が多かった。バイオフィルムでカルジオリピン比率が高まることから、バイオフィルムでの遺伝子発現変動における当リン脂質の重要性が示された。 緑膿菌がバイオフィルムを形成した際に放出する膜小胞は、浮遊状態に比べてマクロファージのサイトカイン誘発能が高いことが前年度までの研究で明らかとなっており、その要因解明を目指した。リポ多糖のLipidAに架橋するポリミキンシンBをバイオフィルム状態ならびに浮遊状態の培養液由来の膜小胞と反応させ、マクロファージに添加してそのサイトカイン活性を定量したところ、その活性はポリミキンシンB添加により大幅に減少した。以上の結果から、バイオフィルム由来の膜小胞のリポ多糖がサイトカイン誘発に大きく寄与することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では緑膿菌のバイオフィルム状態で膜小胞形成部位に蓄積するカルジオリピンの機能解明と、膜小胞による宿主免疫応答のメカニズム解明を目指している。 カルジオリピン機能解明においては、今まで緑膿菌でその合成遺伝子が明らかになっていなかったものの、欠損株作製と相補プラスミドを用いた実験によりその合成を担う3遺伝子を特定した。また、その欠損株を用いて膜小胞形成への関与を調べた他、カルジオリピンによる遺伝子発現変動がバイオフィルムで顕著に見られることを明らかにしており、研究計画通りの結果を得ている。 また、膜小胞による宿主免疫応答のメカニズム解明においては、バイオフィルム由来の膜小胞が誘発するサイトカインの種類を特定した他、リセプター発現への影響を解析した。さらにサイトカイン誘発に影響を与える膜小胞内の成分を特定した。これらの結果は、膜小胞による宿主免疫誘発の機構を理解する上で重要な知見となりうる。 以上のことから、両課題において目的達成につながる知見が獲得されたことから、順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
得られた欠損株を用いて、宿主細胞-細菌インターフェースにおける膜小胞と宿主細胞との相互作用を解析し、細菌の膜小胞を介した感染機構の包括的理解を目指す。具体的には、野生株ならびにカルジオリピン欠損株を用いて、浮遊状態とバイオフィルム状態で放出された各々の膜小胞の上皮細胞侵入機構を解析する。また、カルジオリピン有無における膜小胞のサイトカイン誘発能を評価し、バイオフィルム中でカルジオリピン濃度が高まる現象と膜小胞を介した免疫誘発との関連を解析する。
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