研究課題
細胞内におけるタンパク質の輸送異常はさまざまな疾患と結びついており、その機構の解明は極めて重要である。モデル生物である酵母において、GPI(glycosylphosphatidylinositol) アンカータンパク質は小胞体でスフィンゴ脂質依存的に選別されゴルジ体へ輸送されること、また、輸送にはGPIアンカータンパク質の脂質リモデリングとグリカンリモデリングの両方が必要であることが知られている。しかし、両リモデリングの関係性や生物学的意義については不明である。本研究では、GPIアンカータンパク質の選別輸送におけるリモデリングの作用メカニズムと生理的意義を解明する。この目的を達成するために、本年度は先ず、GPIアンカータンパク質の輸送に関与するスフィンゴ脂質分子種の同定を試みた。その結果、複合スフィンゴ脂質ではなくその前駆体であるセラミドが輸送に関与することが示唆された。これは、GPIアンカータンパク質の輸送におけるセラミドリモデリングの重要性と一致する。また、セラミドリモデリングとグリカンリモデリングとのエピスタシス関係性を調べるために、GPIアンカー生合成とリモデリングに関与する遺伝子との各種二重変異株を構築し、GPIアンカータンパク質の輸送を遺伝学的に解析した。同時に、変異株におけるGPIアンカータンパク質のグリカン構造も質量分析により解析した。その結果、セラミドリモデリングがグリカンリモデリングの上位であることが分かった。さらに、GPIの2つ目のマンノースにエタノールアミンリン酸が付加されない場合には、セラミドリモデリングを介さない別経路によりGPIアンカータンパク質が輸送されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究実施計画で提案していた3つの課題、1) GPIアンカータンパク質の輸送とスフィンゴ脂質合成との関連、2) GPIアンカータンパク質の輸送におけるセラミドリモデリングとグリカンリモデリングの関係性、3) グリカンの構造について、いずれも予定通り解析を実施することが出来た。従って、当初の計画通りに進んでいる。
セラミドリモデリングを触媒するCwh43の遺伝子破壊を用いた解析により、GPIアンカーの2つ目のマンノースにエタノールアミンリン酸が付加されない場合には、セラミドリモデリングを介さないバイパス経路によりGPIアンカータンパク質が輸送されることが示唆された。そこで、今後は、同様の現象がセラミドの合成を低下させた場合にも観察されるかどうか調べる。また、バイパス経路を介した輸送にGPIアンカーが必要か、どのタイプの積荷受容体が必要か、積荷受容体とGPIアンカータンパク質との結合性など、バイパス経路を介した輸送のメカニズムを明らかにする。さらに、GPIアンカータンパク質のリモデリングの生理的意義について、リモデリングに関与する遺伝子の破壊株を用いて解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件)
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