研究課題/領域番号 |
19H02923
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中務 邦雄 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (90547522)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 炭素代謝系 / ユビキチン / タンパク質分解 / 脂肪滴 |
研究実績の概要 |
微生物は発酵生産過程において、過酷な環境変化に曝される。微生物に環境耐性を付与して有用物質を大量生産させるには、環境変化に対する応答機構(代謝制御、遺伝子発現制御など)を明らかにする必要がある。代謝制御の仕組みとして、古典的には代謝酵素のアロステリック制御、フィードバック制御、フィードフォワード制御などが研究されてきた。分子生物学の発展以降、代謝酵素の転写・翻訳レベルの制御も明らかにされてきた。近年、ユビキチン修飾系による代謝制御の報告が続いている。しかし、これらは「氷山の一角」であり、ユビキチン修飾を介した未知の代謝制御が数多く存在するものと考えられる。本研究では、出芽酵母を材料に、ユビキチン修飾を介した炭素代謝系の新たな環境応答機構の解明を目指している。 これまでに、脂肪分解に関わる脂肪滴上の酵素の半減期を、シクロヘキシミドチェイス法→ウエスタンブロッティングによって調べていた。しかし抗血清の力価が低く検出に難があった。2019年度は、抗血清の使用法を詳細に検討した。その結果、当該タンパク質を再現良く検出する方法論の確立に成功した。これにより、様々な変異株で再現良く半減期の測定できるようになったので、分解に関わる因子の同定を進めている。引き続き、脂肪分解の環境応答機構の解析を進める。 出芽酵母のある炭素代謝系に関わる一連の酵素群(20種類)全てについて、エピトープタグを付加した融合タンパク質を内在レベルで発現させ、ユビキチン修飾を解析することに成功した。その結果、一部の酵素にはポリユビキチン化と思われるスメアバンドが見られ、一部の酵素にはモノユビキチン化あるいはマルチモノユビキチン化と思われるバンドが、再現良く見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出芽酵母の炭素代謝に関わるある代謝経路に着目し、その経路に関わるすべての酵素(20種類)について、エピトープタグをゲノム上のORF末端に挿入した。全20株について、エピトープタグ融合酵素の発現を確認した。次に、それぞれの細胞内で、Hisタグ融合ユビキチンを過剰発現させ、ユビキチン化タンパク質をNiカラムで濃縮した。先のエピトープタグに対する抗体でウエスタンブロッティングを行い、代謝酵素のユビキチン化を解析した。その結果、一部の酵素にはポリユビキチン化と思われるスメアバンドが見られ、一部の酵素にはモノユビキチン化あるいはマルチモノユビキチン化と思われるバンドが、再現良く見られた。そこで、ユビキチン化の程度が特に強い5種類の酵素について、発現プラスミドを作製した。現在、これらのコンストラクトと、ユビキチン修飾系の変異株約130株を用いて、修飾に関わる因子の同定に向けて準備を進めている。 脂肪滴上のタンパク質について特異的な抗血清を作製し、細胞内における安定性(分解)をシクロヘキシミドチェイス実験によって調べている。このタンパク質については、C末端にエピトープタグを融合しても分解されるが、分解に関わる因子の要求性がタグを融合していない内在性のものとは異なる可能性を示唆する結果を得ていた。したがって、タグを融合させない完全に内在性のタンパク質を解析する必要があると考えた。しかし、抗血清の力価が低く、検出に難があったため、抗血清の使用方法を工夫し、再現良く検出する方法を確立できた。これにより、様々な変異株で半減期の測定できるようになったので、分解に関わる因子の同定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
出芽酵母の炭素代謝に関わるある代謝経路に関わる酵素について、ユビキチン修飾のマップを作成できた。今後は、ユビキチン修飾遺伝子の変異株(~130株)で発現させ、確立しているアッセイ法によってユビキチン化の有無を解析することで、それぞれの酵素のユビキチン化に関わるE2、E3酵素と制御因子を探索する。 脂肪滴上タンパク質の細胞内における安定性(分解)の解析も進める。抗血清の使用方法を確立できたので、様々な変異株で半減期の測定する。既に有力なE3リガーゼの候補を得ているので、単離脂肪滴と混合することにより、既に予備的に構築していた試験管内ユビキチン化反応系の確立も行う。
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