研究課題/領域番号 |
19H02929
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉川 貴徳 京都大学, 農学研究科, 助教 (00721606)
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研究分担者 |
門田 有希 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (30646089)
小出 陽平 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70712008)
奥本 裕 京都大学, 農学研究科, 教授 (90152438)
寺石 政義 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80378819)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イネ / japonica / indica / Juvenile-adult生育相転換 / 栄養成長 / QTL解析 / qJA1 / qJA2 |
研究実績の概要 |
本研究は、イネjaponica品種とindica品種間において栄養成長期間のjuvenile-adult(JA)相転換期の分化に関与する遺伝的要因を同定し、その育種的有用性を明らかにする取り組みである。これまでの取り組みにより、indica品種と比較してjaponica品種は相転換期が遅く、この分化に2つのQTLs(qJA1, qJA2)が関与していることを明らかにした。この進化的意義の解明に向け、2019年度はコシヒカリおよびKasalathに加え、コシヒカリ背景の染色体置換系統を京都大学および北海道大学の実験圃場にて栽培を行った。その結果、京都と比較して北海道で育苗した個体の方がJA相転換が遅れる傾向にあること、またこの変化がQTLの遺伝的背景により異なることを見出した。さらに成熟個体の表現型を比較したところ、コシヒカリは京都と北海道で大差ないのに対し、Kasalathおよび染色体置換系統では草丈や分蘖数が大幅に減少した。これらの結果から、JA相転換がindica型の系統は高緯度地域において収量が著しく減少する可能性があることが示唆された。 JA生育相転換に伴う遺伝子発現プロファイルの変化を調査するため、コシヒカリおよび染色体置換系統の第2葉、第4葉、第6葉由来のtotal RNAを用いたRNA sequence解析を行なった。PCA解析の結果、全体の変動の68.3%が生育ステージに起因しており、コシヒカリと比較して染色体置換系統はよりadult側に分布していた。また、最も変動の大きかった2000遺伝子を用いたクラスタリング解析の結果、約75%の遺伝子は生育相の進行とともに発現量が上昇しており、その多くは二次代謝産物の合成に関与する遺伝子であることが明らかになった。これらQTLの原因遺伝子の同定に向け、候補遺伝子の機能欠損体および過剰発現体の作出を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下の2大課題により構成され、それぞれの研究を遂行するために複数の小課題を計画している。2019年度に予定した実験は以下の通りである。 (大課題1)qJA1およびqJA2原因遺伝子の同定および分子的制御機構の解明:qJA1, qJA2候補遺伝子の機能欠損体および過剰発現体の作出、JA相転換の進行に伴う遺伝子発現プロファイル変化の調査 (大課題2)相転換期の改変が農業形質に及ぼす効果の解明:qJA1, qJA2が相転換形質および農業形質におよぼす影響、京都および北海道における生育比較、indica背景においてqJA1, qJA2がjaponica型の染色体置換系統を選抜 2019年の台風の影響などにより一部の実験のやり直しを余儀なくされたものの、予定していた実験をほぼ全て終えることができ、概ね計画通りに進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の取り組みにより、1)qJA1およびqJA2の機能欠損体、過剰発現体を作出、2)indica背景においてqJA1, qJA2がjaponica型の染色体置換系統を選抜し、3)二次代謝産物の合成に関わる遺伝子の発現が大きく変動していること、4)qJA1, qJA2のindica型アリルがJA相転換を早期化する効果があること、5)JA相転換が環境要因による影響を受け、遺伝的要因との交互作用があること、6)相転換の早い系統は高緯度地域において収量が著しく減少する可能性があることを見出した。これらの結果は、1)候補遺伝子の機能改変がJA相転換を変化させるのか?、2)indica品種でもJA相転換を遅延させると高緯度地域における生産性が向上するのか?、3)具体的に葉の中のどのような代謝産物が増加し、それが生理的にどのような効果を発揮するのか?、4)相転換経路においてqJA1およびqJA2がどこに位置づけられるか?、5)どのような環境要因がJA相転換に影響を及ぼすのか?、6)相転換が早い系統の生育が高緯度地域で悪かった理由・メカニズムは?などの新たな問いが生じた。そこで、2020年度は当初の予定に新たな実験を追加し、以下のような取り組みを行う。 (大課題1)qJA1およびqJA2原因遺伝子の同定および分子的制御機構の解明:候補遺伝子形質転換体の相転換形質および農業形質の調査、相転換経路におけるqJA1, qJA2の位置付け、Juvenile-adult生育相における葉のメタボローム解析 (大課題2)相転換期の改変が農業形質に及ぼす効果の解明:環境要因がJA相転換に及ぼす影響の調査、indica背景においてqJA1, qJA2がjaponica型の染色体置換系統を交配、生育相転換に伴うストレス耐性の変化の調査
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