研究課題/領域番号 |
19H02936
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
宇賀 優作 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 作物研究部門, グループ長 (00391566)
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研究分担者 |
井上 晴彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (10435612)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 根系形態 / 重力屈性 / 環境ストレス耐性 / 水屈性 / 作物開発 |
研究実績の概要 |
本研究では、土壌養水分ストレスの変動に動じない根系形態を持ったイネの開発を目的として、課題1) 環境ストレスシグナルと根伸長角度に関与する経路をつなぐ遺伝子の同定、課題2) 根伸長角度を自在に改変するための遺伝子ネットワークの解明、課題3) 突然変異系統からの有用アリル選抜と育種素材化に向けたフィールド評価、の3課題を実施している。本年度は以下の成果が得られた。 課題1)環境ストレスのうち水(乾燥)ストレスに対して根の可塑性に影響すると推察される水分屈性関連遺伝子を明らかにするために、昨年度評価系を確立し、RNA-Seqを行った。本年度は、データ解析により発現変動遺伝子を明らかにした。その結果、シロイヌナズナで水分屈性に関与することが分かっている遺伝子の相同遺伝子が複数含まれていた。 課題2)昨年度、申請時に根の伸長角度に関与するDRO1やqSOR1が相互作用する可能性が高いとしたオーキシン排出輸送体OsPINsが直接的に相互作用している可能性が低いことが判明した。そこで、本年度は、シロイヌナズナのDRO1ファミリーと相互作用すると報告されたシロイズナズナの相同遺伝子がDRO1ファミリーと相互作用するか検証することとした。ゲノム編集により多重変異体を含むノックアウト系統を作製している。今後、対象遺伝子がイネの根伸長角度に関与しているか調べる。 さらに、根伸長角度を改変するための新奇遺伝子を明らかにするため、クリノスタットを用いて擬似微小重力処理後に発現変動する遺伝子をRNA-Seqにより解析した。その結果、イネの地上部重力屈性遺伝子Lazy1の上流で働くことが報告された遺伝子の発現に変動がみられた。 今後、課題1と課題2ともに、関与する遺伝子をゲノム編集系統の分析などにより同定するとともに、課題3にて育種素材化のための形質評価を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度、解析装置の故障などにより課題1、2の進捗が遅れた結果、全体の進捗がやや遅れたが、課題1、課題2ともに候補遺伝子の絞り込みと一部の候補遺伝子のゲノム編集系統の作製が進んだ。次年度以降、完成した候補遺伝子のゲノム編集系統については評価を行う予定である。以下、課題1と2の具体的な進捗を示す。 課題1)昨年度、水分屈性関連遺伝子を同定するため、重力屈性変異体を用いた水分屈性の評価系を確立した。加えて、この評価系を用いて根端をサンプリングし、RNA-Seqを行った。今年度はデータ解析を行い、RNA-Seqのストレス処理区とコントロール区を比較した。その結果、ストレス処理区で発現が上昇した874遺伝子、発現が減少した963遺伝子を明らかにした。この中にはこれまでにシロイヌナズナで水分屈性に関与することが知られる植物ホルモン関連の遺伝子のイネの相同遺伝子が5つ含まれていた。これは確立した評価系で水分屈性関連遺伝子の単離が行えることを示している。 課題2)BiFCやSplit Luciferaseなどの相互作用解析を行った結果、申請時に根の伸長角度に関与するDRO1やqSOR1が相互作用する可能性が高いとしたオーキシン排出輸送体OsPINsが直接的に相互作用している可能性が低いことが判明した。そこで、根伸長角度を改変するための新奇遺伝子を明らかにする別のアプローチを試みた。1つは、シロイヌナズナのDRO1ファミリーと相互作用するAtRLD1-4のイネ相同遺伝子がDRO1と相互作用するか検証する。今年度、ゲノム編集により多重変異体を含むRLDのノックアウト系統を作出している。根伸長角度を改変するための新奇遺伝子を明らかにするための別アプローチとして、擬似微小重力処理後に発現変動する遺伝子をRNA-Seqにより明らかにした。解析の結果、発現変動遺伝子にはイネの地上部のDRO1ファミリーLazy1の上流で働くことが報告された遺伝子を含む7つのヒートショック転写因子が含まれていた。
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今後の研究の推進方策 |
各課題について今後の研究計画について以下の通りまとめた。 課題1)RNA-Seqの結果から得られた水分ストレスで発現が変動する65個の植物ホルモン関連の遺伝子に加えて、それ以外の発現変動する遺伝子の中で水分屈性に関与し、ゲノム編集によりノックアウトしても地上部に影響が表れない遺伝子の選定を行っている。選定後、CRISPR-Cas9法を用いて候補遺伝子を非機能型にしたゲノム編集系統を作出する。得られたゲノム編集系統を用いて、水分屈性に異常が見られるか、加えて水ストレス条件下でこの系統がどのような根伸長角度を示すかX線CTを用いて明らかにする。 課題2)イネでRLD1-4のホモログがDRO1やqSOR1と相互作用するか明らかにするため、クローニングしたイネのRLD1-4のホモログを用いて共局在解析及び共免疫沈降を行う。更にイネのRLD1-4の多重変異体を含むゲノム編集系統を作出しているので、これらの遺伝子が根伸長角度に関与しているかX線CTを用いて明らかにする。 クリノスタットを用いた微重力条件でのRNA-Seq解析の結果、イネの地上部でDRO1ファミリーの上流で働くことが報告された遺伝子を含めた7つのヒートショック転写因子、及びDRO1ファミリーと相互作用する可能性がある遺伝子も発現変動する遺伝子として検出した。これらの遺伝子のうち、特にDRO1ファミリーと相互作用する可能性のある遺伝子が根伸長角度に関与しているか、ゲノム編集系統を作製し、その表現型に対する影響を明らかにする。 課題3)課題1と2で作製したゲノム編集系統についてX線CTなども用いて表現型の解析を詳細に行い、育種素材としての有用性を検証する。
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備考 |
PNASで公開した成果についてのプレスリリース。科学新聞 (2020年8月28日), 日本経済新聞電子版 (2020年9月10日), 日本農業新聞 (2020年9月17日), NHK水戸放送局 (2020年9月1日放送), Japan Times (2020年9月20日)
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