研究課題/領域番号 |
19H02939
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
安達 俊輔 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30717103)
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研究分担者 |
松岡 信 福島大学, 食農学類, 特任教授 (00270992)
田中 佑 京都大学, 農学研究科, 助教 (50634474)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光合成 / GWAS / イネ / 在来品種 / MIC-100 |
研究実績の概要 |
作物の光合成測定の迅速化のため、葉1枚あたりCO2同化速度の測定時間を従来の1/10以下に短縮した新型迅速光合成測定装置MIC-100を開発した。本研究はMIC-100を用いてCO2同化速度に関わるゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、日本で育成されたイネ198品種の光合成変異をもたらす新規遺伝子の特定を目指す。さらに肥料条件とCO2同化速度の遺伝×環境相互作用を制御する新規ゲノム領域の特定を目指す。これまでの検討で、イネ品種間のCO2同化速度には約3倍の変異が認められた。さらに在来品種に比較して近代育成品種が有意に高いCO2同化速度を示すことを認めた。一方近代育成品種の光合成速度と育成年次との関係は認められなかった。したがって、在来品種に比べると育成品種は光合成速度の高いものが選ばれたが、近代育種の過程で光合成速度は改良されていないと判断すべきである。品種間変異の生理的要因については、クロロフィル量や葉の厚さとCO2同化速度の間に有意な関係は認められず、光合成速度の変異にはこれら以外の性質が深く関わると示唆された。3年間にわたるGWASの年次反復実験によって、CO2同化速度に関与する計5箇所のゲノム領域を同定した。さらに複数年次データの主成分分析スコアを利用したGWASでは、明瞭なピークが第4染色体、第8染色体にそれぞれ見いだされた。すなわちこれら2つのゲノム領域の信頼性が高く、今後の遺伝子単離のターゲットになりうることが示唆された。以上のようにこれまで実現されてこなかったCO2同化速度に関わるGWASが本研究で実現した。今後は見いだされたゲノム領域の確認と遺伝子特定に向けて検討を進めるとともに、遺伝×環境相互作用する光合成ゲノム領域の特定を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度、2020年度に実施した日本型イネ198品種の分げつ期を対象とした光合成測定において、日本のイネ品種の間に約3倍のCO2同化速度の差異が存在すること、在来品種に比較して近代育成品種の光合成速度が有意に大きいこと、一方近代育成品種の光合成速度と育成年次には関係が無いことが明らかとなった。したがって在来品種に比べると育成品種は光合成速度の高いものが選ばれたが、近代育種の過程で光合成速度は改良されていないと考えられる。品種間変異の生理的要因については、クロロフィル量や葉の厚さとCO2同化速度の間に関係は認められず、光合成速度の変異にはこれら以外の性質が深く関わると示唆された。 北海道の品種群は遺伝的に本州の品種群と分離しており、に有意に高いCO2同化速度を示したことから、光合成速度の点において独特な品種育成がなされたことが示唆された。北海道品種の特異な集団構造はGWAS結果に影響を及ぼすと考えられたため、GWAS解析には北海道品種を除く169品種を用いることとした。 2019年に実施したCO2同化速度に関わるGWASでは、第1、第3、第4染色体上にそれぞれピークが認められ、このうち第3染色体のピークが最も大きかった。一方2020年に実施したGWASでは、第4、第8、第11染色体にそれぞれピークが認められ、第3染色体には認められなかった。さらに全品種パネルのCO2同化速度を測定した過去3年間のデータを用いた主成分分析スコアを利用したGWASでは、明瞭なピークが第4染色体、第8染色体にそれぞれ見いだされた。すなわち認められた全5箇所のゲノム領域のうちこれら2箇所のゲノム領域の信頼性が高く、今後の遺伝子単離のターゲットになりうることが示唆された。これらのゲノム領域の再確認の実施に向け、品種間交配を行ってF2分離集団を3集団育成した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで見出したゲノム領域の作用の確認を行うため、育成したF2分離集団を圃場に展開し、Genotype-by-sequenceによる遺伝子型解析とCO2同化速度の測定を実施し、Rプログラムr-qtlライブラリのcomposite interval mappingによるQTL解析を実施する。さらに候補ゲノム領域に含まれる遺伝子の配列変異を整理し、候補遺伝子の抽出を進めるとともに当該遺伝子のTos17突然変異体の取得と固定系統育成を行う。さらに遺伝×環境相互作用する新たな光合成ゲノム領域の特定に向けて、名古屋大学に整備された窒素施肥を段階的に変化させた圃場で日本イネ品種パネルを栽培し、CO2同化速度の評価を行うとともにGWASを実施する。
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