研究課題/領域番号 |
19H02941
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 始彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (00355538)
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研究分担者 |
杉浦 大輔 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (50713913)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イネ / 窒素固定 / エンドファイト / 炭水化物 / 品種 |
研究実績の概要 |
日本晴およびこれまで高いARAが認められたアフリカイネ品種「CG14」およびADPグルコースピロホスホリラーゼ(AGP)OsAGPL1のTos17挿入変異変異体「Agpl1」系統について植物体部位別にARAの窒素施肥反応性を圃場にて解析した。茎部や葉のARAは分けつ期では高窒素によって抑制されたが、それ以降は影響は小さくなった。一方根のARAは生育後半に高窒素による抑制がみられ、地上部と異なる傾向を示した。Agpl1は出穂期の茎部において日本晴より高い活性と糖蓄積をしめした。しかし、経時的なARAの変化から推定した作期間中の積算窒素固定量には日本晴とagpl1で有意な差は認められなかった。またCG14の茎部NSCの生育ステージや窒素施肥への反応性を調査した。その結果、分けつ期までデンプンを蓄積していなかったが出穂期では窒素条件によって異なり、窒素施肥下ではほぼ糖のみを蓄積したが、低窒素ではデンプンもやや蓄積する傾向が認められた。このようにアジアイネとは異なる炭水化物代謝特性をもち、このことが窒素固定活性の変動のひとつの要因となる可能性が示唆された。茎部について部位別にARAを比較した結果、不伸長茎部および葉鞘基部で高い活性が認められ、茎の下部で窒素固定活性が高いことを明らかにした。SWEET組換え系統については再現性よく高い活性を示す系統の特定には至らなかった。これは温室栽培であったことが一因と考えられる。 また土壌水分(湛水、湿潤)の茎部ARAへの影響は明確ではなかったが有機物(セルロース)添加により増加する傾向があった。基質の供給や嫌気的環境が茎部窒素固定活性を高める可能性が示唆されたが今後さらに検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素施肥の影響について時期および部位によって異なることが明らかになった。高窒素施肥によって生育ステージによっては乾物重あたりの活性は低下するが、積算固定量については大きな低下はみられなかった。このことは窒素施肥条件下でも一定量のエンドファイトによる窒素固定の寄与がある可能性を示唆する。 これまで明らかでなかった茎部の中での部位別の活性の変動を調査し、特に活性の高い部位を特定することができた。今後のイネにおける窒素固定エンドファイトの生態や機能を解明していく上で重要な一歩であると考えている。今後その変動要因として考えられる土壌からの窒素固定菌の侵入や定着しやすい植物側の環境についての詳細な解明につなげたい。 また品種間差異については、AGPaseの変異体であるagpl1系統について、親品種の日本晴との比較で生育ステージを通じたARAと乾物生産の変動の特性を明らかにすることができた。さらにアフリカイネについてARAとNSCの関係について生育ステージや窒素施肥の影響の特徴を明らかすることができ、今後のアフリカイネにおける窒素固定の増強への示唆を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
活性の高かった不伸長茎部について、活性が高い要因と植物側と微生物側から解析していく。植物側の要因としてはNSC濃度や酸素濃度が想定される。さらに15N2などを用いて窒素固定活性の定量化を行うとともに、活性高い微細部位の特定を試みる。また微生物菌叢については微細部位によっても異なる可能性があるため、土壌や根からの侵入経路を含めて検討していく予定である。また、不伸長茎部について品種間差異も明らかにすることで、これらから活性を高める方策を検討していく。 品種間差異についてはこれまでに遊離糖を高集積し、ARAが高い傾向が認められたアフリカイネ品種について関与する遺伝要因を明らかにするためにアジアイネを遺伝的背景とする染色体置換系統など遺伝解析集団を栽培し、茎部の遊離糖の変異を予備的に調査する。 また多収インディカ品種北陸193号とジャポニカ標準品種日本晴を圃場において栽培し、茎部を含む各部位のARAを経時的に調査するとともに窒素施肥条件の影響を解析する。ARA活性と植物体中のデンプンや糖類、窒素濃度とARA活性との関係を解析し、ARAの変動要因を解析する。また一作期間中の積算窒素固定量を推定し、多収インディカ品種におけるエンドファイト窒素固定能の窒素獲得への寄与を明らかにする。
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