花にはアントシアニン色素によるさまざまな模様が現れる。模様ができるメカニズムを明らかにすることは、園芸学・生物学のトピックである。模様のひとつに、花弁の上部に色素が溜り(赤くなる)下部には溜まらない(白くなる)バイカラーがある。ユリ (Lilium spp.) のバイカラー品種を用いて、花弁で発現している配列を網羅的に解析したところ、ユリの花でアントシアニン生合成を調節しているMYB12 (R2R3-MYB転写因子のひとつ) の蓄積量が、白い部分で有意に減少していることが分かった。ところが、MYB12は通常花弁全体でアントシアニン生合成を促進している転写因子であり、バイカラー品種とフルカラー品種の違いをMYB12の存在だけで説明することはできない。 そこで昨年度までにユリの花弁に蓄積しているmicroRNAの解析をすすめた。microRNAはnon-coding RNAのひとつで、おもに転写因子の働きを抑制する。その結果、microRNA828 (miR828) がMYB12の働きを転写後に特異的に阻害して、バイカラーの形成に関わっていることを突き止めた。 今年度はmiR828が関与する模様が他のユリや他の植物でも認められるかどうか検討した。原種のユリであるエゾスカシユリの花弁ではスカシユリ品種と同じように花弁の上半分にアントシアニン色素が溜まりバイカラーとなっていることが分かった。そこでmiR828とMYB12転写因子を調査したところ、miR828の蓄積とMYB12の発現が負に相関していることがわかった。エゾスカシユリでもスカシユリ品種と同様なメカニズムで模様が発生していることがわかった。一方で、その他のユリやチューリップ、アルストロメリア、サルビアではバイカラーの発生にmiR828が関与している手がかりは得られなかった。
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