研究課題/領域番号 |
19H02958
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鎌倉 高志 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 教授 (70177559)
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研究分担者 |
荒添 貴之 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 助教 (40749975)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞分化誘導 / 付着器 / 酢酸 / キチンデアセチラーゼ / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
イネの重要病原糸状菌であるイネいもち病菌は,感染過程において自身の細胞壁成分を変化させるステルス化機能によって宿主の免疫系から逃れていると考えられてきた。我々はいもち病菌の主要細胞壁成分であるキチンを脱アセチル化するキチンデアセチラーゼタンパク質 (Cbp1) に着目し,キチンからキトサンへの変換反応時に生じる酢酸が,感染特異的器官である付着器を形成するための細胞分化シグナルとして作用することを見出した。本研究は「酢酸を介した細胞分化」がどのような分子機構によって成り立っているかを詳細かつ包括的に理解し,酢酸の新たな細胞内生理機能とそれに関わる細胞分化機構を解明・提案することを目的とする。 まずキチンの脱アセチル化によって生じる酢酸が細胞表層のpH変化に関与しているかどうかを検証した。野生株では,Cbp1が特異的に局在する発芽管先端部での酸性化が確認されたのに対し,Cbp1欠損変異株では発芽管先端部における顕著な変化は認められなかった。このことから,キチン脱アセチル化反応により生じる酢酸が細胞表層pHを変化させることで付着器形成を誘導している可能性が示唆された。また,酢酸と同様に超微量 (fM) のプロピオン酸およびソルビン酸の添加によってもCbp1欠損変異株の付着器形成率が回復することを見出した。ゲノム編集技術を用いた網羅的な付着器形成関連遺伝子群の解析から,酢酸,プロピオン酸,ソルビン酸が付着器形成時に働く特殊化された同化代謝経路 (グリオキシル酸経路) の活性化に関与している可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,「酢酸を介した細胞分化」という真核生物における新しい生命現象に対し,複数アプローチによりその未詳機構の一端を明らかにするための研究である。そのため,本機構への関連が推定される分子機構について,ゲノム編集技術を基盤とした網羅的な遺伝子機能解析により,何らかの関連因子を探索する必要がある。本年度は酢酸による発芽管先端部の酸性化やグリオキシル酸経路の活性化等の「酢酸を介した細胞分化」に関連する複数の機構を見出すことに成功した。また,プロピオン酸やソルビン酸の添加によってもCbp1欠損変異株の付着器形成率が回復することから,グリオキシル酸経路と同調的に働くとされるメチルクエン酸経路の関与についても見出すことができた。以上より,いくつかの関連機構を初年度から見出せたことから,当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように,「酢酸を介した細胞分化」にはグリオキシル酸経路の活性化が重要な細胞内応答反応の一つであることが考えられたが,本機構の制御メカニズムについては明らかになっていない。そこで,既存の付着器形成シグナル伝達経路との関連性について調査すると共に,プロピオン酸,ソルビン酸が関与すると考えられるメチルクエン酸経路やその代謝産物の関連性についても解析を行う。酢酸の認識に関与すると推定される細胞膜タンパク質群においても網羅的な遺伝子破壊株の作出とその評価により関連因子の抽出を試みることで,本機構の包括的な理解へと結びつける。
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