研究課題
多くの植物病原菌は,感染過程で自己細胞壁を修飾するステルス化によって宿主の免疫系を逃れると考えられてきた。本研究はイネいもち病菌の細胞壁キチンを脱アセチル化しキトサンに返還するキチンデアセチラーゼタンパク質 (Cbp1) に着目し,反応で生じる酢酸が感染特異的器官(付着器)の細胞分化シグナルとして作用することを見出した。本研究は「酢酸を介した細胞分化」の分子機構を詳細に理解し,酢酸の新たな生理機能による細胞分化機構を解明することを目的とする。これまでCbp1によるキチン脱アセチル化反応により発芽管先端部での酸発生,超微量 (fM) のプロピオン酸などの添加によっても付着器の誘導が起こることを見出した。ゲノム編集技術による付着器形成関連遺伝子群の網羅的解析により,酢酸の認識から細胞応答に関与する膜タンパク質 (Sho1),MAPキナーゼ (Pmk1),転写因子 (Far2),酢酸合成経路 (Pdc1),ペルオキソーム形成因子 (Pex6)および同化代謝経路 (Icl1, Mcl)を同定した。より包括的な機構の理解のためにRNA seq解析を行い,酢酸がエピジェネティック因子を介して大規模な代謝経路のスイッチングを促すことを明らかにした。それらを既存の知見と統合し,1.既知のMsb2やPth11による環境認識によりCbp1が活性化され,2. Cbp1が発芽菅先端部で酢酸を放出し、3. その酢酸が膜タンパク質Sho1と相互作用することでPmk1等の主要MAPKシグナル経路が活性化、4. エピジェネティック因子の変動によるクエン酸回路の抑制とFar2など関連転写因子の活性化、5. Pdc1等酢酸生合成経路の活性化とPex6等によるβ酸化の促進でグリオキシル酸回路など同化代謝経路 の活性化が生じ,これら一連の細胞応答反応が階層的に進行することで付着器が形成されることが考えられた。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 85 ページ: 126~133
10.1093/bbb/zbaa035