研究課題/領域番号 |
19H02960
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
峯 彰 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80793819)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 植物免疫 / 遺伝子発現制御 / Long noncoding RNA / シグナル伝達 / 細胞間コミュニケーション |
研究実績の概要 |
課題1では、細菌抵抗性に寄与するAHL転写因子に着目した研究を進めた。遺伝子発現解析や接種試験から、このAHL転写因子はサリチル酸経路を介して細菌抵抗性を亢進することが示唆された。ベンサミアーナタバコにおける一過的遺伝子発現系とNanoBiTを組み合わせて、植物細胞内におけるタンパク質間相互作用を定量的に評価できる実験系を構築した。本手法を用いて、このAHL転写因子とサリチル酸経路関連因子との相互作用を探索した。NPR1はサリチル酸受容体として働き、TGA転写因子との相互作用を介してサリチル酸応答性遺伝子の発現を制御する。NanoBiTを利用したタンパク質間相互作用解析から、このAHL転写因子はサリチル酸受容体であるNPR1とは結合しないことが分かった。一方で、このAHL転写因子はTGA転写因子と結合すること、そして、NPR1とTGA転写因子の相互作用を促進する働きがあることを明らかにした。
課題2では、免疫の活性化に伴って発現が誘導され、その欠失が花粉発生に異常をもたらすlong noncoding RNAであるlncR30に関する解析を進めた。lncR30を欠失させたゲノム編集個体を利用した相補実験から、花粉発生異常を回復させるのに十分なlncR30の領域を同定できた。また、様々な発達ステージにある蕾から採取したゲノム編集個体の花粉を詳細に観察した結果、lncR30は花粉発生段階の正常な細胞分裂に必要であることが示唆された。加えて、lncR30を欠失したゲノム編集個体は、病原細菌感染によって顕著な稔性の低下を示すことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1において、独自のタンパク質間相互作用の定量系を構築し、それを用いて細菌抵抗性に貢献するAHL転写因子がNPR1やTGA転写因子との相互作用を介して機能している可能性を明らかにできた。これによって、このAHL転写因子の機能を分子レベルで解明するための研究基盤が整ったと考える。
課題2においては、lncR30の機能に十分な領域の同定やlncR30の欠失が花粉発生段階の細胞分裂に異常を引き起こすことを突き止めるなど、その機能に関する解析を順調に進めることができた。また、lncR30は細菌感染時において次世代を残すために必要であることを明らかにした。これは、免疫活性化に伴ってlncR30の発現が誘導されることの生物学的意義を示すものであり、特に重要な発見だと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
課題1においては、AHL転写因子の分子機能のさらなる解明を進める。AHL転写因子とサリチル酸経路を制御するNPRタンパク質やTGA転写因子との相互作用を網羅的に調べ、AHL転写因子が作用するサリチル酸経路関連因子の全体像を明らかにする。さらに、サリチル酸経路関連変異体を利用して、このAHL転写因子を介した細菌抵抗性の亢進がサリチル酸経路の活性化によるものであることを遺伝学的に証明する。また、RNA-seqやChIP-seqを用いてAHL転写因子による制御を受ける遺伝子をゲノムワイドに同定し、サリチル酸経路の活性化におけるAHL転写因子の役割を明らかにする。
課題2に関しては、lncR30の機能解明をさらに進める。ゲノム編集個体を利用した相補実験を引き続き進め、lncR30の機能に関わる領域をさらに絞り込む。また、糸状菌など、細菌とは異なる病原体の感染時においても、lncR30の欠失による稔性の低下がみられるかどうか調べる。
|