研究課題/領域番号 |
19H02968
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木矢 剛智 金沢大学, 生命理工学系, 准教授 (90532309)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | doublesex / fruitless / ショウジョウバエ / カイコ / フェロモン / 神経活動 / Hr38 |
研究実績の概要 |
本研究は、昆虫の脳高次中枢における行動決断の神経機構とその神経回路の進化の解明を目的としている。本研究により、動物の脳に共通に認められる、様々な感覚情報を手掛かりに行動を決断する神経機構とその進化的基盤について、その一端を解明するものである。 本年度は、sSP2神経回路の機能操作実験及びCaイメージングによるaSP2神経回路の活動動態の解析(ショウジョウバエ)と、脳の性決定遺伝子候補の機能解析(カイコガ)を行った。 以前に本研究者がショウジョウバエの脳において、性行動モチベーションの制御に重要であることを見出したaSP2神経回路が、どのような情報の統合と行動制御が行われているのかということを、遺伝学的な神経回路の操作と生理的イメージングにより解析した。遺伝学的な操作の結果、当初の予想に反してaSP2神経回路からのグルタミン酸放出は性行動に影響しないという結果を得た。これはグルタミン酸以外の神経伝達物質が性的モチベーションの制御に関わることを示唆している。生理学実験においては、aSP2神経細胞特異的にGCaMP6f及びtdTomatoを発現する系統を作出し、Ca2+イメージングによって神経活動を計測できる系を確立した。予備実験の結果、メスの身体に接触した際に弱いながら神経活動の増加が認められた。 カイコガにおいては、脳の性決定遺伝子候補としてdoublesexとfruitlessを想定し、発現解析や機能解析を進めた。doublesexについては、発現解析と機能解析の結果を論文として出版した。fruitlessについては、ノックアウト系統の表現型解析を進め、fruitless遺伝子は性行動に必要ではない、ということを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、ショウジョウバエを用いた研究では、aSP2神経回路特異的に遺伝子機能を操作できる系統を樹立したことで、ストックセンターから取り寄せたRNAi系統と掛け合わせるだけで機能解析ができるシステムを構築した。これを用いてグルタミン酸伝達に重要なグルタミン酸トランスポーター(VGluT)のノックダウンを行ったが、性行動に変化は認められなかった。この結果から、aSP2神経が制御する性的モチベーションはグルタミン酸以外の神経伝達物質を介していることが強く示唆された。今後、他の伝達物質についてスクリーニングをすることで、本機構を解き明かすことが出来ると考えられる。 次に自由行動下のオスの脳からaSP2神経選択的Caイメージングで神経回路の動作機構について調べるシステムを構築した。まず、高カリウムで刺激した場合には明確なカルシウム応答が見られることを確認し、in vivoで生理学的な応答が正常に記録出来ていることを確認した。次に、オスの前足に処女メスの腹部を接触させたところ、ゆっくりとした弱い応答が見られ、aSP2はメスの性フェロモン情報に応答すると考えられた。まだ実験回数が十分でないためさらに検証を重ねる必要があるが、本研究者の仮説検証に必要な手掛かりが得られつつある。 カイコガを用いた研究においては、性特異的な神経回路に着目し、候補の遺伝子として着目したdoublesexとfruitlessについて解析を進めた。doublesexを発現するオス特異的な神経回路を見出したので、これについて論文を出版した。fruitlessに関してはノックアウト系統の解析や発現解析を進め、ショウジョウバエと同様に雌雄で異なったmRNAのスプライシングが起こることを見出した。 上記の事項より、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ショウジョウバエを用いた研究においては、aSP2神経回路特異的ノックダウンによって、性的モチベーションを制御する神経伝達物質のスクリーニングを開始している。行動を解析するスクリーニングであるため多少時間がかかるが、最終的には本研究の目的を達成することを目指したい。 次にCa2+イメージングによって、aSP2神経回路において嗅覚・味覚経路の性フェロモンが加算的・相乗的に神経活動を誘発するのかということを明らかにする。 カイコガを用いた研究においては、doublesex発現神経回路を遺伝学的に操作することを目的に、TAL-PITCh法によるdoublesex遺伝子座へのGAL4ノックイン系統の作出に取り組んできた。これまでに1stメチオニンの前にGAL4をノックインした系統を作出したが、何故か正常にGAL4/UASシステムが作動せず、doublesex発現細胞にGFP等の外来遺伝子を発現させることが出来なかった。ゲノム中のサイレンシングによる可能性が高いので、今後はdoublesex遺伝子に2Aシステムを介してGAL4をpolycystronicに発現させることで回避できるか検討する。またfruitlessに関しては性行動に全く関与しないという意外な結果が十分に得られたので、これを論文として出版することを目指す。さらに、doublesexやfruitlessの解析より、脳の性決定は体細胞をは異なった経路を介することを見出しているので、この経路に関与する新規な遺伝子のスクリーニングを行う。
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