研究課題/領域番号 |
19H02969
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水口 智江可 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (90509134)
|
研究分担者 |
新美 輝幸 基礎生物学研究所, 進化発生研究部門, 教授 (00293712)
粥川 琢巳 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (70580463)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 幼若ホルモン / 脱皮ホルモン / カイガラムシ / 性的二型 |
研究実績の概要 |
カイガラムシは発育において顕著な性的二型を示す。本研究課題では、カイガラムシの性特異的形質の発現において「内分泌カスケード」と「性決定・性分化カスケード」の間に存在するクロストークの全容解明を目的とする。さらに、こうしたカイガラムシに特有のカスケードを阻害・撹乱することによって致死効果をもたらすような、画期的な新規害虫防除剤の開発を目指す。 今までに我々は、他種昆虫で成虫形態形成に関わることが知られる転写因子E93が、カイガラムシにおいてはオス特異的に発現することを見出した。2019年度はミカンコナカイガラムシを対象として、E93の転写調節機構の解明を進めた。主要な研究成果は以下の通りである。 【幼若ホルモン (JH) による転写因子E93の転写調節機構解明】約6.2 kbのE93プロモーター領域を含むレポーターベクターを作成し、JHの初期応答遺伝子であるKr-h1タンパク質発現ベクターと組み合わせてレポーターアッセイを実施した。段階的な削り込みにより、Kr-h1の結合する領域を約160 bpにまで絞り込んだ。 【性決定因子Doublesex (Dsx) によるE93およびjhamtの発現制御機構解明】約6.2 kbのE93プロモーター領域に対して性決定因子Dsxのタンパク質発現ベクターを組み合わせてレポーターアッセイを実施したが、顕著なレポーター活性は見られなかった。JH生合成酵素の1つをコードするjhamtのプロモーター領域(約5.3 kb)についても、Dsxタンパク質発現ベクターを共存させたレポーターアッセイを実施したが、やはりレポーター活性は見られなかった。よって、今回検証したE93およびjhamtはDsxによって転写が制御されるターゲット遺伝子であると証明することはできなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究は、当初の計画と比較するとやや遅れていると判断している。その根拠および具体的な状況は以下の通りである。 当初の計画では、2019年度にカイガラムシのゲノム解析を実施する予定であった。ゲノム解析のためのサンプル準備を進めていたが、専門家からの指摘によりサンプル準備方法を見直し、できるだけ遺伝的に均一な個体群を一から準備することとした。しかし2019年秋頃、累代飼育している個体群がなかなか増えず、ゲノム解析の実施時期に遅延が生じた。このため、ゲノム解析の実施を翌年度に延期することとした。 このように、当初の計画の一つであったゲノム解析において遅れが生じているものの、他の項目(転写因子E93の発現制御機構解明)については順調に進んでいることから、全体としては「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果および進捗状況を踏まえ、次年度は以下のような推進方策を考えている。 【フジコナカイガラムシのゲノム配列の解読】次世代シーケンサーを用いて、フジコナカイガラムシのゲノム配列解読を実施する。得られた配列データは、転写調節機構解明の各実験で用いる。 【カイガラムシの培養細胞系の樹立】フジコナカイガラムシ組織から培養細胞系の樹立を試みる。樹立できれば、転写調節機構解明の各実験で用いる。 【Dsxの下流ターゲットの網羅的探索】ChIP-seqにより、Dsxタンパク質が結合する可能性のあるゲノム領域を網羅的に同定する。 【薬剤投与により内分泌カスケードを撹乱した場合の影響調査】我々はこれまでに、JH様活性を持つ薬剤(以下、JHミミックと省略)をメスに局所投与すると、明確な致死効果や外部形態異常は見られないものの、産卵数が減少するという予備的結果を得ている。そこでJHミミックを局所投与した場合の、性決定・性分化カスケード因子の遺伝子発現への影響、卵巣の発達状態、産卵数、およびふ化率について調査する。
|